財前光が部長白石蔵ノ介の料理を食べたのは夏の合宿のカレーが初めてだ。家で母親が作るものよりも(失礼だが)遥かに旨く、鍋一杯どころか二杯も用意していたものも全て無くなってしまった。

部長に何が入っているのか聞いても教えてくれず、それどころか「俺の愛情や」と戯言をほざくのでもういいやと頭の隅に押しやっていたのだが。

「財前、昼飯ボロネーゼでええ?」
「(ボロネーゼ…?)いやなんでもええですけど」

部長の母上と俺の母が知り合いだったとかどんな奇跡だ。二人でショッピングしてくるからよろしくねーと一方的に言われ部長の家に上がらせてもらい(これがまたごっつええ匂いのする綺麗な家だった)若干気まずい思いをしながら午前中を過ごしていたのだが、部長は部長で呑気に録画してあったらしい相棒を見たり勉強したりと自由に過ごしていたのでこんなもんかと思っていた。

しかしボロネーゼって何だ。突然部長の口から発せられたシャレオツな言葉に思わず心の中でぎょっとしていたが、しばらくもしないうちに旨そうな匂いがキッチンから漂う。
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