い (2/3)
幸村が嬉しそうにケーキを眺めている脇で、俺はパスタを取っていた。そもそも昼を食べていない身だ。幸村や丸井のように山の如くケーキを取るような趣味も無い。適度に取って戻ると、既に食べ始めている蓮二と赤也は俺の皿を見た。

「寂しい皿っすね」
「あれほどあるのだから、ケーキも取って来たらどうだ? ほら、精市のように」

日頃と違って随分と楽しそうだな、と揶揄する蓮二もどこか嬉しそうだった。

「幸村君が喜んでくれてるならよかったー。な、ジャッカル」
「俺に振るのかよ! …まあ、確かにあれだけ笑ってるのは珍しいしな」
「えーそうなんすか? あ、けど確かにテニスしてるときは真顔ですもんね、幸村先輩。楽しんでんならよかったっす!」
「俺の台詞パクんじゃねーよ赤也」

そのとき丁度幸村が皿に大量に乗ったケーキ累々と共に無事に帰還して、自分を見て似やにやと笑っている連中にどうしたの、と不審気に聞くが、蓮二は「精市が皆に好かれている話だ」と誤魔化しているのか直球に言っているのか分からないような言葉で誤魔化されてへへ、とまたもや嬉しそうに笑っていた。

彼のことを、テニスだけ見て怖い人だと勝手に言うやつは幾らでも居る。でも、今だけでも笑っていて欲しい、と俺も皆に気付かれない位に小さく笑うのだった。


叶わなくてもそう願うよ
俺達の神の子が幸多からんことを!