「どうせ、速いだけでしょ」 財前は見事に俺達の逆コーナーをついてきた。俺は咄嗟のことに動けなかったが、謙也くんなら、と期待を込めて叫んだ。 「速いだけでええんや! さっさと走れ!」 「っおう!」 「なっ……!」 謙也くんは、今まで俺が見た中でも一番の走りを見せた。彼はそのまま球を捕らえて、ラケットを振った。 球は見事な弧を描いて財前君のコートにぽとりと落ちた。それを見て満足げな謙也くんに、俺は話しかける。 「すまんな、謙也くん。――皆もや。俺、勘違いしとってん」 君達の長所はその個性なのだと、ようやく気が付いたんだ。 謙也くんは満面の笑みで俺を見ている。ちらりと一氏君達を見ると、うんうんと頷いていた。 だから、と俺は声を張り上げた。誰にだって聞こえるように、強く。 「皆ばらばらでもええ。不協和音でも何でも、奏でてやろうやないか!」 |