あと三十分弱、とりあえずお賽銭でも投げておこうか、ということになったのだが、やはりと言うべきか神社は朝のラッシュ並みに混んでいた。俺達は人混みに揉まれつつも五円玉を投げて逃げ出した。入ったかどうか甚だ疑問だが、これについては俺達の五円が無駄にならないことを祈るばかりだ。

謙也くんは配っていた甘酒を二人分持ってきてくれた。受け取ると、かじかんでいた指がほっかりと暖かくなる。



「ん、美味しい」

「白石爺臭いわその台詞」

「うっさい」



下らない会話をしつつも、俺は腕時計をちらりと見た。今年があと少しで終わる。



「なあ、謙也くん」

「なん?」



甘酒のお代わりを貰いに行こうとしていた彼は、俺に呼ばれてくるりと向きを変えた。



「来年もよろしゅうお願いします」



言い終わって丁度、近くの寺からと思われる除夜の鐘が鳴り響いた。時間ぴったり、予期していなかったが素晴らしい演出だ。

謙也くんはその言葉にはにかんで、言った。



「こちらこそ、よろしゅう!」
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