本当のことを言うと、金ちゃんが四天宝寺に入って部活に来て、俺と試合したいって言われたら断るつもりは更々なかった。勿論負けるのは嫌だけど、「四天宝寺の聖書」を倒した一年ルーキーという箔は付く。そうすれば、試合にも出しやすくなるだろう。おそらく、これが正しい選択だった。

が、ここで俺が妥協して試合をしてしまうのは良くない。金ちゃんだけならよかった。しかし突然現れた二人に負けてしまうと、「白石って案外大したこと無いんだな」とか思われて部の統率が取れなくなる。そうだ、これからは身内にも厳しくいこう。うん。

……とまあ長く言い訳をしていたが、本音を言えば最近やらなければいけないことが多くてイラついていたというのもある。まあ体のいいストレス発散だ。



「人の話くらい黙って聞けんの?」



一歩踏み出して、風になびく髪を押さえる。にっこりと笑って見せれば金ちゃんは分かりやすいほどびくりと怯えた。作って笑うと怖い、と謙也くんにはよく言われるが、自分で鏡前でやってみても特に違和感はないのだが、矢張り他人から見ると違うものなのだろうか。



「楽しけりゃ何でもいい、わけないやろ。千歳は兎も角、金ちゃんははよ帰りや。これ以上ここにいると俺らまで先生に怒られてまうんやで」



注釈を添えるならば、今日は始業式。新入生は式が終わってHRも済んだら早く帰るように言われていた。部活見学は来週からで、間違っても今ここに居るはずがない。

それを知っていたのかは知らないが、一緒になって試合していた千歳もほぼ同罪のようなものだ。そもそもフラグは叩き折ったはずなのにどうして四天宝寺に編入しているのかも謎だ。試合をする前にそっちを説明して欲しいものだ。



「千歳君も、後輩はちゃんと躾けんと。嘗められてからじゃもう遅いで」



この学校で普通の先輩後輩関係を築こうと思ってももう遅いがな! 俺もいい加減ちょっとくらいお灸据えてもいいと思うんだ……
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