「なあ早く、早く!」

「あーはいはい、急かさんといてや、金ちゃん」



分かってるさと笑ってコートに戻る俺達二人はしかし勝てる見込みも無い。ちょい、と謙也くんの裾を引き、ひそりと周りには聞こえないくらいの声で囁いた。



「とりあえず、俺達は勝つために初戦を託されてる。そして、謙也くんがどう思っていようと俺は勝ちたい」

「白石でも、」

「でも、やあらへんわ!」



ここまで来てまだぐずぐず言おうとした謙也くんに、気が付けば怒鳴っていた。季節外れの熱気は俺の額から頬に汗を垂らしている。ふと全国大会で、謙也くんを引っ叩いたことを思い出した。あのときも、こんな感じだったな。



「俺が勝ちたい言うとるんやからさっさと勝つんや、二人で」

「……白石」

「謙也くんが、勝ちたいって思ってないんならええけどな、それなら俺かて不本意やけど棄権したる。けどな、そうやないやろ。謙也くんは夏のことを散々未練がましく勝手に自分は役に立たないとか、自分は勝てないとか思い込んどるだけや。それに」



大きく、息を吸った。



「それに、俺がいるのに負けるはずあらへんよ」
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