テニスをするのは、ほぼ不可能らしい。それ以前にいきるか死ぬかの瀬戸際なんだそうだ。テニスが出来ない。俺のアイデンティティがひっそりと失われてゆくのがわかる。
テニスとは、俺の人生の全てだった。
あれだけ否定しておいてなんだが、テニスをするのは嫌いではない。ただ、きっと、俺にとっては呼吸と同じような感覚なんだ。必然的にしなくてはならない、だからこそ、嫌になる。

体が動かない。
瞼も開けられない、腕も上げられない、まるでこの体が自分のものじゃないようだった。なにもできないからこそ、思考は深く沈んでゆく。こんなに無力だったのか。

ふと、病室の扉が開く音がした。目が開かないので誰が来たのかわからないのが難点だ。来訪者は無言でベッドの近くの椅子に座る。
「……ごめんね、幸村君」
どこかで聞いたことのある声だった。
「ずっと見放してたのに、今になって来るとか、私も卑怯だとおもうよ、ごめん、でもね、」
泣きそうな声、だ。
「私も半分、もらうから。二人でひとつなら、きっと、治るよ。テニスも、出来るようになる」

一眠りすると、俺の体は先程までが嘘のように、軽く動くようになった。これもすべて名も云わぬ誰かのお陰だ。その正体に、俺は、心当たりがあった。



「白石が、倒れた……?」
嘘やん、と笑い飛ばしてみても、オサムちゃんの沈痛な面持ちは変わらない。
「運がよければ、全国前には完治するらしいで。医者から聞いた話やけどな。……とりあえず、小石川を部長代理に格上げや」
「……はい」
意味がわからない。だって、昨日も白石は元気そうで、そんな兆候ひとつもなかったのに。なで、なんで白石が、



「なあ真田、知っとるか? 四天王寺の白石の話」
元旦もあけた冬の日、駅前で偶然忍足侑士と出くわす。彼の父親の勤務先が幸村のいる病院だそうで、度々病室にも見舞いに来ていた。
「白石、倒れたらしいで。……それも、幸村とおんなじ病気や」
神様もひどいやっちゃなあ。あの二人を、テニスも出来ない体にするなんて。
そう呟いて、去っていった後ろ姿を忘れられない。



「しらいし、目を覚まし。みんな、……俺も、待ってんで」
どうして、大事なときにお前は頼ってくれへんねん。





×××

なーんてシリアスぶってみましたが私がシリアスに耐え切れなくなったので本編はお気楽青春√ですごめんね!
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『無自覚in√s』2014/05/30 Fri 20:13
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