*非合理修正版/おためしプロローグ
*現状この文体で書くのが一番ストレスフリーなのですが、成り代わり転生ものの文体としては不適格かとも思うのでどうしよっかな〜〜と考えているところです




 俺――幸村精市は、幼いころ、車道を走る車を見ると衝動的に泣きわめくはた迷惑な赤ん坊だった。それ以外はおとなしくて、利口な、まさに理想の息子を体現したようなガキである、らしい。
 両親は俺のことを、他人とは異なる挙動をする――いわゆる“おかしな”子どもだと思っていたようだ。ある種その予測は正解だったわけなのだが、よもや自分の子がまさか、一度人生を全うした死人だとは、まさか思うまい。

 この身体における俺の一番最初の記憶は、暗闇の中、なにかに優しく揺られているような、守られているような、そういうものだった。おそらくこれは母の胎内にいたときの記憶だ。それからしばらくしてから、胎内から這い出て、はじめて母と対面したときの記憶。薄ぼんやりとした視界の中でなにも見えやしないが、労わるような、優しい声が聞こえて、ああこの人が自分の母親なのだとはっきり認識した。
 そう、俺には生まれたときから、否生まれる前の羊水でプカプカ沈んでいたときから、前世の記憶というものがあった。一度死んだ記憶を持ち、そしてまた別の人間に生まれ変わっているのだと理解していた。そして、その記憶がおそらく、一般に受け入れ難い類のものであることも。
 だから俺はとにかく平凡な子どものフリをしてみたのだけれど、――結局分かったことといえば、自分には演技力が皆無だという馬鹿馬鹿しい話である。思えば前世でも大根役者だとか演技力が来いだとかひどい罵りを受けたものだが、まさか普通の子どものフリがこれほどまでに難しいとは思わなかった。前世からの荷物があるとは言えど、身体は周りと同じ、できることは限られている。そこらのガキと同レベルまでは兎も角としても、もう少しうまくやれると思っていた。なにしろ何をやっても上手くいくものだから、俺も調子に乗ってしまったのだ。(いまから思えば、もしや“幸村精市”の身体という時点で平凡、一般とはかけ離れていたのやもしれないが、いまではもう検証のしようがない。)

 まあそんなわけで、地元では天才少年として多少名を馳せ浮かれていた幼い時分の俺が、誰が敷いたレールとも知らずにのうのうとテニスを始め、それから二度の絶望を経て、楽しいテニスをするようになるまでの話をしよう。

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『非合理/リライト』2016/09/12 Mon 23:23
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