07 …… 「保健室」 「何だいいきなり声色変えて」 横目でちらりと山下さんを見やり、保健室の扉を開ける。 俺の後ろには丸井もいた。なぜついてくるのかと問うと、「あの仁王に年下の女友達がいるなんて信じられないから」だと言う。 「俺ら」 「ここで」 「待ってるから!」 声を揃えて、親指を力強く突き出す2人。何故そんなに仲良さげたのだろうかと思ったが、そういえば彼らは同じクラスであったと思い出す。 丸井と山下さんに見送られ、俺は保健室へ入った。 窓際に仁王が座っていた。俺に気がついたようで、「あいつはまだ来とらんぜよ」と言う。確かに俺と仁王以外に人影は見られない。俺は1番近くのベッドに腰掛けた。埃が舞い、光をうけてきらきらと輝く。 聞こえてくるのは扉の向こうにいる丸井と山下さんの無邪気な笑い声だけ。午後の穏やかな時間が流れる。穏やかな時間に慣れてしまっていた頃、唐突に扉が開いた。あ、と思ってそちらを見る。 入ってきたのは1人の女子生徒だった。 こちらに目も向けず、彼女は椅子に腰掛ける。 「仁王、彼女が?」 「そうナリ」 仁王はあくびを1つし、のそりと立ち上がった。 「佐藤じゃ、保健委員」 そこで初めて目が合った。 「1年A組、佐藤です」 「3年C組、幸村です。よろしく」 そうして挨拶を交わし、交渉に入る。 彼女は現在部活には入っておらず、保健委員に加入しているために昼休みは毎日保健室で過ごしているという。仁王もよくここにいるので知り合いになったらしい。 受け答えをする言葉もしっかりしている。マネージャーになる基準は満たしているであろう。 「じゃあ、これからよろしくね、佐藤さん」 「えっ」 「えっ」 えって、何に対してだろう。そう思って仁王の方を振り返る。仁王はおどけるようにして肩をすくめてみせた。 「佐藤には何も知らせてないき」 そうして我関せずといった風に、職員用の椅子に腰掛けて窓の外を眺め始めた。 まあそこまで時間のかかる話ではないし、と俺は単刀直入に切り出した。 「男子テニス部のマネージメントをしてくれないかな」 「あ、いいですよ」 思いの外早く決まってしまった。 ×
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