06 …… 部活動が開始される数分前、立海男子テニス部の部室には異常な緊張感が立ち込める。それは主に真田副部長のせいともいえるし、幸村部長のせいだともいえる。だが柳先輩はどこか違うのだ。 そんな緊張感に耐えられなくなって、窓を全開にする。眼下に広がったのは鮮やかな緑や美しい花々ではなく、人の顔だった。 声にならない声。思わず窓から後ずさる。 「赤也早う窓閉めろ、冷房ぬけるじゃろうが」 「あばばばば」 仁王さんの後に窓の外から声が聞こえた。 「は?」 誰かいるのかと丸井さんが外を覗き込む。 「いねえじゃん」 丸井さんが不思議そうな顔でこちらを見る。 確かにいたんだ、人が。驚きすぎてよく覚えてないけど、女子であったことは間違いない。 しかしそれを先輩達に言おうにもそんな雰囲気でないなので、俺は深く考えずに芥子色のジャージに袖を通した。 試合中に膝を擦りむいたので、部室に救急箱を取りに戻ってきた。 「やばいやばいやばいやばい」 「逃げるよ急いで!」 人がいた。見覚えのある2人の女子生徒。 小さめの窓から同時に出ようとしてつっかかっている。そこを俺の後ろから現れた幸村さんがひっつかんで降ろした。 あの外見からは微塵も感じられない力強さだった。 その女子生徒は幸村さんの前で、うつむきがちに正座をしている。さすがに観念したようだ。 「なんで君達がここにいるんだい? ここは男子の部室だよ」 幸村さんが冷静にたずねる。右側に座っていた方が顔をあげて、そこで俺は気づく。色々と有名な山下さんだ。ならば左側は小田さんだろう。あの2人は仲がいいらしいとクラスメイトから聞いていた。 「あの、その、若気の至りといいますか、その」 言葉を濁しながら山下さんが答える。 俺はベンチに座って絆創膏を貼りながらその状況を眺める。 「つまり何をしようとしていたんだい」 核心を突く質問だ。水を打ったように場が静まる。 俺はなんだかミステリー映画の山場を見ているような気分に浸っていた。 「だから、えっと」 「その、の、のっ覗きです! 言い訳はしません。すみませんでした」 2人は同時に頭を下げる。小田さんなんかは勢いよく下げすぎたせいで床で額を打っていた。 幸村部長はひとつため息を吐いて口を開いた。 「そうか、これからは気をつけなよ」 それだけ言うと、彼は肩にかけたジャージを翻して部室を出ていった。 「幸村くんに引きずりおろされたときのいい匂いが制服に残ってる……」 小田さんが呟いた。俺はドン引きした。 ×
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