05 …… 屋上へと通じる階段を通り、給水タンクの上に登るとそこには仁王がいる。彼を四字熟語で表現するならば「自由奔放」だ。仁王ほど掴みづらい者はいないであろう。授業の無断欠席など数え切れないほど経験しているという。 「何か用か、柳」 仁王は寝転がった姿勢のままこちらを横目で見る。 たいしたことではないと告げると、彼は寝返りをうち、こちらへ背を向けた。 その場に座り込み、ノートを広げる。紙をめくって一番新しいぺージを開くと、そこには彼女の名前と身長、体重、座高が細かく記されていた。しかし他のページと比べるとその情報量の差は歴然としている。 「10、9、8、7、6」 そろそろのはずだ。俺は声に出して数字をさかのぼり始めた。 扉の向こうから軽い足音が聞こえる。 「5、4」 その足音はだんだん大きくなり……。 「3、2、1」 騒音。仁王の肩が縮まる。 「あれ? ないっ!」 扉を勢いよく開け放った山下は、屋上全体を見渡して、ないないと叫ぶ。それはそうだ。ここは屋上なのだから。 下の山下と目が合う。彼女は状況が飲み込めていない薄ら笑いを浮かべた。 「どうも〜、へへ、ここに移動動物園が来てるってクラスの男子に聞いたんスけどね、っかしーなーへへ、うへっ」 「悪いな山下。お前を適当な言い訳をつけてここに来させるよう美園に言ったのは俺だ」 「おっ……ふ、あの男子美園くんっていうんだ……そうなんだ……」 「混乱しとるぜよ」 仁王が起きあがって俺の脇にしゃがみ込んだ。そして山下をのぞき込む。視線が合致した。山下のにやけ顔がじわじわと消えていく。 「あーっ、あんた、仁王! あれ? 仁王? えっじゃああの赤いのは誰? あれ仁王じゃなかったっけ。あれ? えっ」 「混乱しているな」 俺は吸水タンクから降り、山下に歩み寄る。 「な、何ですか……」 彼女はおびえた表情でこちらを見た。 俺はノートを開き、ペンを持って口を開いた。 「すまないが、いくつか質問に答えてはくれないか」 「あ、そのくらいだったら、はい」 ×
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