私が一般寮生になって2週間が経とうとしていた。巖戸台に来て数日の間は分寮の方で過ごしていたのだが、部屋が足りないとかで、そちらを出ていくことになった。
入寮する際に、高校への編入試験があった。私は元の学校の中では平均を保っていたのだが、こちらのレベルがわからないのでまあ必死に勉強したね。その甲斐もあってか、私は余裕で試験をくぐり抜けることができた。それは沙世ちゃん達も同じらしく、今日、顔をあわせることができて良かった。
と、そこで部屋の扉が開いた。同室の先輩だ。

「なーに物思いにふけってんのっ、らしくないね」

先輩は私のそばまで歩いて来て、薄いカーペットの上に座り込んだ。彼女の褐色の長い足が、蛍光灯に照らされて艶めく。

「部活何にするか決めた?」

先輩は、後ろ髪よりも長いもみあげを指に絡ませながらそう問う。

「実はまだ迷ってて」
「じゃあうちの部に入りなよ! 楽しいよ、バレー!」

私が全部言い終える前に彼女はそう言った。目が爛々と輝いている。

「バレーかあ、見学に行きますね」

本当はテニスか吹奏楽かで迷っていたのだが、せっかく誘ってもらったのだから、行かなければならないだろう。
私は少し考えるようにして、そして笑顔で答えた。

翌日、放課後になると、私は廊下を歩いて、F組の教室の前で足を止めた。開かれた窓から中の様子を伺う。
馨ちゃんは日直だったらしく、ベランダで黒板消しをはたいていた。支度を終えたらしい女子生徒達が馨ちゃんに一声ずつかけ、私の横を通り過ぎていく。
しばらくそこに立っていると、目が合った。手を振る。
ベランダの彼女は、比較的ゆったりしたリズムで動かしていた手を、2倍の速さで動かし始めた。風向きが変わって、黒板消しから舞う粉が彼女にふりかかる。
通学鞄を肩にかけてやって来た馨ちゃんの制服は、上半分が白くなっていた。

「……早く行きましょう」

馨ちゃんは胸元を手で払い、E組へ向かって歩き始めた。

教室に残っていたのは彼女だけだった。真ん中の席で、ぼんやりと窓の外を眺めている。憂いを帯びたその横顔は、女子であるにも関わらず「美男子」と形容されることがままあった。
私は背後から忍びより、沙世ちゃんの髪をかき混ぜた。彼女は一瞬何が何だかわかっていない風な表情を浮かべ、私の顔を見て不愉快そうに目を細めた。
「ハロー、ハウアーユー?」私は満面の笑顔で言う。

「アイムソーハッピーセンキュー」
「全然そう見えませんけど」
「……行くよ」

沙世ちゃんは席を立ち、私と馨ちゃんを置いていくかのような足取りで廊下を歩く。
私達は部活動を見学するために校内を歩き回った。やはりどこの部も部員は欲しいようで、各活動場所に行くごとにその部員に勧誘される。馨ちゃんはその度に人見知りを発動し、受け答えする際にどもりまくっていた。
そして生徒下校時刻となり、自分達の気になっていた部活は粗方回れた。

「決まった?」

と沙世ちゃんが言う。

「私は決まりました」
「私もー」

少しやつれたような表情で馨ちゃんが答え、それに私も乗っかった。
先輩からのお願いもあり、雰囲気もよさそうだったので私はバレー部へ入ることにした。馨ちゃんは空手部に入るという。普段は大人しい彼女だが、昔から全国大会に出たりして、それなりに実力のある選手なのだ。沙世ちゃんは化学研究部に入るらしい。
まあ、個性が出ていいんじゃないかな。
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