月光館学園分寮は4階。暗がりの中で無機質な音が静かに響く。
コンピューターに向き合っていた私は、その画面に表示された文章を読み直す。そして読み終えると息を吐いた。

「どういうことだ……」

幾度となくそれを繰り返した後で、私は背もたれに体重を預けそのまま天井を見上げる。そこは電子機器の明かりで僅かに照らされていた。
部屋の扉が開く。

「まだやっていたのか」
「ああ」

明彦が立っていた。彼は静かに扉を閉め、中央に置いてあるソファに腰掛けた。

「何度やっても同じだろう」

それはそうだが、と言いかけてやめた。目の前の画面に映るデータ。それは何度読み返しても変動などしない。

「鈴木か」

明彦が呟いた。私は頷く。
そうだ。彼女が異質なのだ。他の2人にはペルソナの適正があった。しかし彼女のデータを見ようとすれば、その画面に砂嵐がかかってしまう。

「とりあえず、浜崎と青井にはここに入寮させ、鈴木については一般寮と掛け合いをしてみようと思う」
「そうだな、それが一番だ」
「決まりだ。明日、彼女らに報告する」

明彦が鍵はかけておくというので、コンピューターの電源を落とし、私は先に作戦室を出た。
砂嵐のかかった画面を思い出しながら、私はぼそりと呟いた。

「……まるで『見せてやらない』とでも言うようじゃないか」



私達はその日しっかり睡眠をとり、翌日の朝、桐条さんに呼ばれてラウンジに降りた。なぜか透子さんだけは、真田さんに別の場所へと連れていかれたようだが。

「朝から呼び出してすまない」
「いえ、そんなことないですよ」

私の隣に沙世さんが座り、テーブルを挟んで桐条さんが座る。この間も座ったソファだ。
目の前の彼女は同年代とは思えないほど落ち着いていて品格があった。やはりどこかのお嬢様なのだろう。身につけているのも高価そうだ。

「昨晩は検査をしてもらったろう」
「ああ、そういえば」

ここで相づちを打っているのは全て沙世さんだ。
この人見知りのせいで、私は慣れない人とはなかなか話すことができないのだ。この性格には、自分でもうんざりしていた。
桐条さんの目はまっすぐ私達の方へ向いている。そしてその形の良い唇が「率直に言う」と動いた。

「君達には、ここ、私立月光館学園分寮に入寮してもらいたい」
「え?」
「この寮にいるメンバーは全員が特別課外活動部の部員だ。この部は主に君達が体験したあの時間帯、影時間に活動する。部員は皆ペルソナという能力を扱える者で、君達にもその適正があることが昨夜わかった。その力を私達にぜひ貸して欲しい。もし答えがイエスであるならば入寮の手続きをしよう。命に関わる話でもあるが、返事を聞かせてくれ」

初めて聞く単語ばかりで、正直言って内容が掴めなかった。
私と沙世さんは向き合い、背を丸めて相談する。答えが出るまでにそう時間はかからなかった。あてもなく身よりもないので、乗るしかないだろうという判断だ。
私は前を見て口を開いた。

「お願いします」
「そうか、よかった。これが君達の召喚器だ。ペルソナというのは……」

桐条さんが説明を始めた。私は小さく頷きながら話を聞いていた。

「他に質問はあるか?」

一通りの説明が終わると彼女は私達に問いかけた。隣で手が挙がる。

「透子はどうなるんですか?」
「わからない」
「わからないって……」
「彼女のデータが出ないんだ。今、明彦が話をつけている。おそらく彼女は一般寮での生活になるだろう」
「そうですか……」

沙世さんはソファの背にもたれた。
私は召喚器だという銀色の銃を手に取る。初めて触ることになるそれは、なぜだか私の手にしっくり馴染んだ。
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