ぱちり、と瞼を開けると私は道路に横たわっていた。硬い道路に寝ていたせいか、起きあがると腰に痛みが走った。周りを見渡して状況を確認する。
恐ろしく暗く不気味な街。人の姿は一切見受けられず、車はあるものの微動だにしない。棺桶のようなものが所々に置いてあり、よくわからない恐怖心をかきたてられる。ビルやら何やらが建っているところからして、私の住んでいる町ではないことが伺えた。だとすれば、ここはどこ?
1人でパニックに陥っていたその時、右隣で小さく呻く声が聞こえた。瞬時に身構える。暗くてよく見えないが、この見慣れた輪郭は……。

「透子、さん」
「あれ……? 馨ちゃん?」

確認するように問うその声は、正しく幼なじみのものだった。1人ではないことに安堵し、胸をなで下ろす。
彼女はうつ伏せの格好からのそのそと上体を起こした。そして頬を掻き、隣の物体を揺さぶる。

「おーい、沙世ちゃーん、起きてー」

語尾をのばしながら透子さんは呼びかける。今自分の身に起こっていることを理解できているのだろうか。朝、登校してて、入学式の日で、気がついたら暗い街に倒れていた。現実離れしたこの状況に恐怖を感じないのだろうか。
揺さぶられていた黒い影が起きあがった。そして辺りを見渡し、私たちに問い詰める。

「なに、これ……。透子、ここどこ、何時、私たちなんでここにいるの、ねえ」

透子さんはそれに答えない。ばつが悪そうに、顔をそむけるだけだ。私も答えられない。何もわからない。
沙世さんはその場に泣き崩れた。静かな街に、彼女の嗚咽が響く。透子さんが沙世さんの肩を抱き、あやすように背をなでている様子を私は横で眺めていた。
5分ほどして、沙世さんが泣きやんだ。辺りが薄暗いせいか、しゃくりあげながら流れた涙を拭う背中がいつもより小さく見えた。

「私達、どうなるんでしょう」
「さあね」
「両親は心配してますよね」
「そうだね。……早く帰らないとね」
「はい」

そうだ、帰ろう、一刻も早く。
私は固まった体に鞭を打ち、立った。2人も立ち上がった。3人でゆっくり歩き出す。
噴水のある広場に出ると、向こうの道路から眩しいほどの光を浴びた。派手な音を立ててゲームセンターの前でバイクが止まる。その人物は、バイクから降りるとヘルメットを外した。艶やかな髪が流れ、つりがちの瞳が私を射抜く。女の人だ!



美鶴が帰ってこない。用事があると出ていったきり何の連絡も寄越さない。
さすがに心配になってきて、ポケットに入れていた携帯をひっつかんだ。突然震え出す。
かなり驚いたが、急いで開く。ボタンを押して、応答。

「どうした、美鶴っ」
「明彦、今から人を連れてきてもいいか? 適正者を発見した」

急な連絡に問いただしたくなりはしたが、電話越しの彼女の声色からしてかなり急いでいるようだったから「大丈夫だ」と返した。
自分の部屋を出てラウンジの明かりをつけた。テーブルの前に置かれたソファに腰掛け、思考を巡らせる。
携帯越しの美鶴は、普段の落ち着いた彼女とは違い少し焦っているようだった。今は影時間と呼ばれる少々特殊な時間帯であり、何が起こってもおかしくないのだが。
美鶴は適正者を発見したと言った。この月光館学園分寮には「特別野外活動部」の部員しか入寮できない。今の時間帯ならば、よほどのことがないかぎり人は連れてこられないはずなのだが、一体何が起こった?
時計の針が再び動き出した頃、玄関の扉が開いた。入ってきたのは、美鶴と、見かけない制服を着た少女が3人。美鶴は俺の横に座り、3人を向かいのソファに座るよう促した。

「おいどういうことだ美鶴。3人もだなんて聞いていないぞ」
「黙って聞いておけ」

すっぱりと切り捨てられた俺は、言われたとおり説明し始めた幼馴染の声を黙って聞いていた。
美鶴は自分と俺のことについて軽く紹介すると、3人の境遇についてそれぞれの話を聞いたが、どうやら本人達も状況を飲み込めていないようで詳しい情報を知ることはできなかった。
話が終わると、美鶴は彼女らを3階に上がらせ、空いている部屋で睡眠をとるように指示した。
残された俺と美鶴は今後のことについて話し合い、取りあえず今日はゆっくり休んでもらって、明日に適正があるかどうか検査をするということが決まった。その先は検査次第だ。
窓の外を見やる。深い闇の中で大きな満月がこうこうと浮いていた。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -