初耳である、という風な表情のりの。
テニス部のコスプレって何だよ。

「へ、へえ……テニス部やったんか、えらい大きな荷物持っとったしてっきり軽音楽部なもんだとばかり……」
「いやまあ軽音部やけど」
「ええ……! ど、どっち」
「どっちとかないわ。どっちとも。テニス部兼軽音楽部、りのも兼部してるやろ?」

「あっああ、確かに……なるほど……」そう呟きながら彼女は頷く。

「な、ならさ! 男子テニス部は、どこ?」
「さあ、わからん。けど今日コート使えるのは女テニだけやで」

そう伝えるとりのは眉を下げて俯く。目に見えて落ち込む彼女に、なんとなく悪いことをしてしまったような気分になり、そういえば陸上部はもう終わったのか、と尋ねようとした時だった。

「恵さん」

そう声をかけられ、視線をそちらに向ける。
財前光であった。彼は学生服を身につけ、リュックを背負っている。

「ああ、光。部活は?」

光は右耳のピアスを軽く引っ張り、「今日はミーティングで終わったんで、軽音部に顔だしてきました」と答えてりのの方へと視線を移した。
りのは彼に見つめられ、居心地が悪そうな引きつった笑顔を浮かべる。しばらくの沈黙の後、光は彼女の方を指して口を開いた。

「なんスか、これ」
「こっ、これ……!」

初対面の相手に「これ」呼ばわりされたりのは、口に手を当てて目を見開いた。

「錦那りのや。2年の」
「はあ、先輩?」

ふーん、と光は対して興味もなさそうに相槌を打つ。

「もう少し時間かかるんやけど、どうする?」

りのが「私は恵みたいに大人びてへんから」とか「どうせ背が低いから」とか言っているが面倒臭いので無視だ。

「俺は終わるまで待ってますわ。この間良いエフェクター買ったんすよ」
「へえ、なら帰りにでも見してもらおうかな」

軽くふらつきながら離れていくりのの背中を見送り、光に軽く手を振る。コートに戻ると、部員達が私を囲むようにして集まってきた。

「ちょっと恵! また財前くんと話しとったやん!」
「どない関係なん!」
「まさか付き合ってるとか言わんよね」
「えっえええ恵先輩財前くんと付き合ってるんですか? くっ……けど恵先輩なら……」
「はいはいはい話を大きくしない。光は軽音部の後輩、同じパートやからよう話すってだけ。はい、コートの整備」

手で払うと、彼女らはそれぞれ不服そうな表情をしてのろのろと散っていく。
私は息を吐いて、こめかみを伝う汗を拭う。生ぬるい風があたりを包んだ。


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