新入生へ向けて開催される部活動紹介は数時間かけて行われる。部活動ごとの持ち時間は短く、次々に紹介していく必要があるので、それぞれ短い漫才を取り入れたり派手なパフォーマンスをしたり、新入生達に対してどうにか印象を残そうと必死だ。
私の所属する軽音楽部は紹介に軽く演奏を挟む。機材の準備に時間がかかるため、昼休み明けの文化部のターン1発目に紹介を行い、そそくさと退場するのが毎年恒例となっていた。
そうして昼休み。体育館のステージに機材を持ち込み、各々準備を進めているところだ。現在軽音部は4バンドいるのだが、その中で今年演奏するのは私達のバンド。少々特殊なジャンルのためこういう場には向いてはいないと思うのだが、どういう訳か周りの3バンド全員からの推薦を受け、ここに立つことになった。

「謙也達のとこみたいなポップなバンドのがええよな、なあ恵」
「ほんま」

私以外のバンドメンバーもやはり腑に落ちていないようで、ベースをつとめる男子が自分のマイクの位置を調整しながら言った。
謙也のバンドはポップパンクを得意としている。ポップパンクとだけ聞くと若干の古臭さを感じるが、ボーカルは爽やかで取っ付きやすく今風、かつ謙也の趣味でヒップホップを所々に取り入れたりと挑戦の絶えないバンドだ。加えてメンバーの容姿も華やかなため舞台映えも良い。それ故になぜ私達のバンドが選ばれたのか甚だ疑問だった。

「俺らは去年の文化祭で演奏してんねん」

噂をすればとやらで、謙也が後ろから声をかけてきた。ステージでせっせと準備を進めている同級生にちょっかいを出す。手伝いに来たという訳ではなさそうだった。

「おっ謙也あ、男テニの発表相変わらずやったなあ、今年もダントツ酷かったで」
「オサムちゃんと部長さんの案や」

一通り準備の終わったらしいドラム担当のメンバーが、椅子に腰掛けながら謙也に言った。謙也は大袈裟に耳を塞ぎながら俺は悪くない、知らん知らんと繰り返す。
男子テニス部の発表を思い出す。緑色の目隠しをした部員がステージ中央に佇み、その前にはたこ焼き器が置かれていた。坊主頭の部員がプレートから出来たてのたこ焼きを取り、目隠しをした部員に食べさせようとする……のだが、湯気が熱いだのちゃんと食べさせろだの騒ぐので上手く口まで運べず何度も失敗してしまう、というなんとも既視感のある流れだった。やっとこさ食べ終えると両脇で見守っていた他の部員達は大いに盛り上がり、その中から「これが愛や!」と聞こえてきた。白石だった。その後唐突に「こけし」の歴史及び製造工程等語りつくし、テニス部自体の紹介もそこそこに、終了。確かに酷かった。

「こけしの説明は何やったん?」
「俺もわからん。誰もわかっとらん」

頭を抱え首を振る謙也に心底同情した。




「恵さん」

軽音楽部部室の戸に手をかけようとしたところで、呼び止められる。聞き覚えのない声に、誰だろうと一瞬考えた。
男子生徒が立っていた。右手には紙が1枚。
目を見る。幼いながらに整った顔をしていた。恐らく1年、入部希望者だろうか。
ふと、彼の耳元で光る物が気になった

「……それ、痛くないん」
「は……」

私の指さした先がピアスである事に気づいたらしい彼は、左手でそれに触れ、頷いた。「あけてしまえば、そんなに」

「へえ」

良いな、と思った。今までピアスに対して特段憧れや興味があった訳では無いが、彼にはよく似合っている。なんとなく羨ましさのようなものを感じた。

「私もあけてみようかな」
「やめた方がいいスよ」
「なんで、ええやん、それかっこええ」
「自分の体に傷つけることになるんで、よく考えた方がいいと思います」

12、3歳であけてる君が言うか、と少し笑ってしまった。

「良い奴やな」
「そうでもないです」
「それ、入部届? 預かろうか」

差し出された紙はやはり入部届だった。「財前光」と書いてある。
ちり、と小さく聞こえた。

おかげさま
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