三月某日、桐王学園の昇降口前は数多の生徒でごったがえしていた。その生徒のほとんどが黒い筒を手に持ち、満開とは言い難い桜の木の下でだべっている。
本日は桐王学園の卒業式であった。この日をもって三年は新しい道へと一歩踏み出す。諏佐典明も例外ではなく、その内の一人である。所属していたバスケ部のメンバーで、最後になると思われる会話を楽しんでいた。

「まじあいつ何様のつもりなんスかね、卒業式ぐらい顔出せっての!」

声を荒らげながら言う若松の目は赤く充血している。

「青峰は最後まで青峰やったってことや」

みんなで別れを惜しむってのが照れくさかったんとちゃう、と言う今吉にわけわかんねえと若松がこぼす。そんな様子を見て桃井があわてるようにして言った。

「じゃあ私青峰くん探してきます」
「あ、ボクも行きますっ」
「ほんならワシも行こうかい……最後やもんな」

それになぜか桜井と今吉もついていった。残されたのは諏佐と一年マネージャー名前の二人だけ。しばしの間沈黙が走る。その空気を何とかしようと名前が口を開いた。

「諏佐先輩、」
「典明でいいよ、言いにくいだろ? まあ、今更って感じだけどな」
「いや、そんな! すさすんぱっ……典明先輩」
「ん?」

どこか申し訳なさそうに名前を呼ぶ名前。それに軽く笑いながら諏佐は応答した。

「四月から大学に行かれるんですか?」
「ああ」
「楽しみですか?」
「ああ」
「大学でも、バスケは続けますか?」

少し離れた後ろの方から鼻をすする音が聞こえた。誰だかわからないが、感極まって泣いてしまったのだろう。
そうか、俺は卒業したんだ。桐王を。バスケ部を。もう彼女と会うことも無くなるのだろうか。もし、もうやめると言ったら、彼女は何と言うだろうか。
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