二人一役

あたしはいつも通り、ミノリと共に登校していた。隣を歩く友人はマフラーを何重にも巻き、さらに制服のポケットに手を突っ込んでいる。
手袋買えばいいのに。
呟いた言葉は当てられた本人には届かず、白いもやとなる。消えていく細かな水の粒を横目で眺めた。

「冬たいね」

どきりとした。自分の言おうとした事をミノリが紡いだので、心の内を覗かれたような錯覚を覚える。
ミノリの言葉に「そうだねえ」と短く答え、両手で耳を包み込んだ。
校門の雑音が遠くなり、代わりに低い音が聞こえるようになる。冬の風にさらされ、冷たかった耳がじわりじわりと温かくなってゆく。
半眼になっていたあたしの視界がミノリの顔いっぱいになった。思わず息をのむ。

「なんしよっとね」

ここらでは珍しい九州の訛り。彼女の出身は熊本だった。

「あったかいよ。ミノリもやれば?」
「や、それと違くて寝かぶっとたって話たい」
「まじ?」
「まじまじ」
「それはそうとあの子みてよ」

あたしは照れを誤魔化すように、ある一点を指す。そこにいたのは、1人の女子生徒だった。真新しい制服に身を包み、校舎を見上げて動かない。人の多い校門でもなかなかに目立っていた。
先日から学校中を駆け巡っていた転校生の噂。おそらく彼女がその転校生なのだろうと判断し、接触を試みた。


「いやーいい子でしたなあ、八千代ちゃん」
「うん」

下駄箱にて靴を履き替えたあたしとミノリは、長い廊下を歩きながら話していた。
この無駄に豪華な内装にも慣れてしまったあたし達は、初等部の頃からの友人である。出会ったきっかけとしてはクラスが同じで、初めての席替えで隣同士となった、というまあありふれたものだったのだけれど、不思議と気が合いそれ以来行動を共にすることが多くなったのだ。
ミノリに続いて教室に入ると、まず最初にクラスメイトのアーチで迎えられた。

「2人共おめでとう!」
「おめでとう。どんだけこの日を楽しみにしていたか……」

明らかに結婚式のノリである。何やらよくわからないけれど楽しそうだと思った。
それにいち早く反応するのはミノリだった。マフラーをぐるぐるに巻いたままの状態であたしの腕をとり、自分のと組んでゆっくりと歩く。
アーチをくぐっている間も言葉や拍手がなげかけられた。

「末永くお幸せにー!」
「お似合いだよ!」
「これからも仲良くね!」

そして自分たちの席(ここでもミノリと隣同士)に座ると、あたしとミノリの前に十字架のネックレスをかけ、英語の教科書を持った芥川慈郎が現れた。

「新婦、新郎と共に登校し続けることを誓いますか?」
「誓います」

慈郎がミノリの方を向いて問いかけると、ミノリは深く頷いた。

「新郎、新婦と共に登校し続けることを誓いますか?」
「……誓います」

登校し続けることを誓うとはなんなのか。ミノリが新郎であたしが新婦だったのか。慈郎のかけてるあのネックレス鳳のだろ。
困惑しながらもはっきりと答えると、紐を渡される。それをあたしは受け取り、本能のままに引っ張った。色とりどりの紙吹雪が舞い、ミノリの頭にぶつかりながら垂れ幕が下がる。
その垂れ幕には「祝! 2人一緒の登下校1,500回」と書いてあり、改めてあたしはミノリとの腐れ縁を感じさせられた。

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