もしもし、いきてる?

昔から寒いのは苦手だった。喋るのさえも億劫で冬場はどうしても黙り込んでしまう。それに加え、私はどうも初対面の相手には冷たい印象を与えてしまうらしい。先ほど会った転校生がいい例だ。彼女は私に対してあまり良い印象を受けなかっただろう。わざとではない、不可抗力だった。言い訳である。
私は頬杖をつき、左隣を見やる。今は空席の机の所有者は、先ほどこの教室を飛び出していったばかりだ。クラスメイトから盛大に祝福された朝を思い返し、後頭部を押さえる。そして、逆方向を向いている舞の椅子を、左足でしまった。

「足癖わりいよな、お前」

ふと後ろからかけられた声。宍戸亮だった。私の真後ろの席に座る亮は、ラケットのガットをいじっていた。

「器用って言ってくれん?」

笑顔で言うと、亮は馬鹿にするかのようにガットを弾いた。

あれからしばらくして舞がスキップしながら帰ってきた。そんな彼女にクラスメイトは白い目を向けている。舞の機嫌がいい時はろくなことがないと皆分かっているのだ。
「なにがあったのか」と尋ねると、舞は自分の席に座り、にっと弾けるような笑顔を向けて言った。

「さっきがっくんたちと廊下走ってたらずっこけて柱に頭ガンっいってさー」
「恥ずかしい」

そう言われてみれば確かに舞の額は赤くなっていた。舞はポケットの中を漁り、何やら取り出した。

「ミントガムー」

例の青いロボットを彷彿とさせる口調で舞は緑色のガムを高々と掲げた。「ピカピカピカ」とSEまで(口で)入れている。
だからといって歓声があがるわけでもないのだが大衆に呆れられようが彼女としてはどうでもいいようだ。

「がっくんに『これ食って元気出せよ』って言われてもらったんだよね」

「食べる?」と舞が気味の悪い笑みを絶やさないので、私は渋々1枚頂戴、と言うように右手を差し出した。
そのガムが偽物で、引っ張ると指を挟まれる仕掛けがされているタイプのものであるということは薄々、というかほとんど気がついていた。おそらく舞本人も私が気づくだろうと予想した上でそれを仕掛けてきているのだ。
舞が笑顔をより深くし、私は目の前に差し出されたガムに手を伸ばす。いつの間にか大勢のクラスメイトが私達を取り囲んでいた。
痛々しい音が教室に響く。「引っかかった……!」そこにいたおおよその人間がそう思った。
しかしその静寂を破ったのは男子の叫び声や、女子の悲鳴でもなく、舞の驚愕の声であった。

「あの一瞬で偽ガムごとひっこぬいた、だと……?」
「パワーイズパワー」

引き抜いた偽のガムは「いらねえよ」と遠慮する亮に押し付けた。

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