1周年リク
きみはぼくらの生命線
お家でおばあちゃんとお勉強してたら賢二くんのお家から電話がきたみたい。ママから電話を受け取って出たら、「これからうち来いよ、紗希乃」とおさそいされた。いいよ!と返事をしたらおばあちゃんがニコニコ笑いながらわたしの服をなんこか持ってくる。

「うーん、すぐにはいけそうにないみたい」
「おれのいのちのキケンがせまってるんだ」
「いのちのキケン……?!」

危険って、賢二くんの家でなにがおこってるの?賢二くんの家に悪いやつが来てるの?

「と、とにかくいそいでいくから!」

おばあちゃんに、「きんきゅうじたいなの!」と伝えてもけらけら笑ってる。笑い事じゃないんだって、はやく、はやく行かなくちゃ賢二くんの命が……!これからお化粧をするっていうママにそんなことしてる場合じゃないと言ったら頭をゲンコツされた。なんで大人はわかってくれないの…?!


*

ママのなっがーいお化粧を待って、やっと着いたのは賢二くんと伊代ちゃんのお家。いったいどんな悪いやつがこの家にあがりこんでるっていうんだろう。気付いたらママの足にしがみついててまた怒られた。べっ、べつに怖くないし…。

「けんじくん!」

ようやく開いた扉の先には賢二くんが立っていた。

「おせーよ!」
「そーゆーのはおけしょうのながいママに言ってよ」

そういえば伊代ちゃんが見えない。いつもならすぐにお迎えしてくれるのに。

「いよちゃんは……?」

命の危険がせまってるっていうのに賢二くんはピンピンしてる。ということは、まさか、

「いよは……」
「ねえ、けんじくん!うそでしょ、まさかいよちゃん……!」

奥の子供部屋からぎゃああと叫び声が聞こえる。うそだ、うそだよ伊代ちゃん。まだ遊びたいこといっぱいあったのに。それなのに…!

「いよちゃん!」

ばーん!と扉に飛び込むようにして入るとそこには、

「……いよちゃん?」
「ううっ、おねえ、おねえさまぁぁっ」
「……ねえけんじくん」
「なんだ?」
「いよちゃんふつうにいるけど」
「べつにいないなんて言ってない」
「だっていのちのキケンだって!きんきゅうじたいだって!」
「いよが泣いてうるせーから」
「それだけ?!けんじくんのうそつき!」
「なっ、うそついてない!」
「ついた!ついたもん!」
「ついてねーよ!」

わたしが伊代ちゃんのお誕生日におばあちゃんと一緒にあげたウサギのぬいぐるみを抱きしめている伊代ちゃんがわんわん泣いてる。とにかく賢二くんはほっとこう。

「行かないで紗希乃おねえざまあああ」
「わたしはここにいるよ」
「そういうイミじゃねーし」
「じゃーどういうイミなの?」
「いよは よーちえんおわったのがイヤだって泣いてんの」
「いよちゃんはまだよーちえんあるよ?」
「おねーさま、もうよーちえんいかないってほんとう?」
「うん。だってこないだ卒園式したじゃん」
「うそだあああ」
「うそじゃないよ〜〜!」

どうやら卒園式の意味がわかってなかったみたい。今日ちゃんと卒園式の意味を知って、伊代ちゃんは悲しくなっちゃったみたいだ。それを命の危険だって言うなんて賢二くんはなんて悪い子なの。

「おねーさま、いよともう少しよーちえんいって」
「むりだよー」
「うわあああん」
「けんじくんなぐさめてよ。おにいちゃんでしょ?」
「むり。できない」
「なんでそーゆーこというの!」
「おまえじゃないと いよが泣くんだ」
「おにいちゃんがやさしくしたら泣かないかもよ」
「やだ」
「なんで!」
「だって、泣きやんだら紗希乃うち来なくなるじゃん」
「……そうなの?」
「そうなのって。おまえ卒園式のとき言ってたじゃん。『いよちゃんのおねえちゃん役がおわっちゃうねー』って」
「よーちえんのおねえちゃん役がおわりってはなしだけど」
「……は?」
「いよちゃんがおねえちゃんみたくおもってくれるならわたしはいつまでもおねえちゃんだよ」

だから、べつに来ないようにしようとか思ってなかったよ。そう言ったら、賢二くんがなんだよとブツブツ文句を言ってた。あ、そっか。幼稚園を卒業したら今度は小学校だ。初等部ってよぶらしいんだけど賢二くんは男の子の学校に行って、わたしは女の子の学校にいく。そうしたら賢二くんにも会えなくなっちゃうなあ。たしかにそれは命の危険かもしれない。会えなくてつまんない毎日ばっかり過ごしていたら、頭がおかしくなっちゃうかもしれないんだから。

「けんじくん、いよちゃん。わたし、これからもあそびに来てもいい?」
「なにいまさら言ってんの。あたりまえだろ」
「おねーさま、いっぱいきてね、これからもいっぱいあそんでね?」
「うん!ありがとうふたりとも!」


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