及川

09
教育実習がようやく折り返しを迎えた。早いなあ、なんて思いつつ部屋でごろごろする。土日が休みって素晴らしいね。そう思っていたのだけど、連絡する友達はみんな予定がはいっていて会えないらしい。なんだよ、つまんないなあ。久しぶりに買い物でもいくか。善はいそげということで、ちゃちゃっと準備をする。とはいえもうお昼回ってるんですけどね。ここ最近はスーツでしか出かけていなかったこともあって何だか新鮮な気分!だけど、駐車場まで降りてからちょっとだけ嫌な予感。車の中は日差しにやられてとっても暑かった。急いでエンジンをかけてクーラーをつける。さて、どこへ行こう。とりあえず、適当にぶらぶらと見て回ろうかな。そうして相棒に乗って街の方へ出て行った。

特に何が欲しいわけでもなく、ぷらぷらしているといつも愛用している下着屋さんをみつけた。お、新しいの買おうかな。色とりどりの下着たちを眺めて、あーでもないこーでもないと考えながら選ぶ。いくつか試着してみて気に入ったひとつを買うことにした。いかにも下着ショップらしい可愛らしいショップバッグを手に、またふらふらと色んな店を見て回った。そんな時、ショーパンのポケットに入れたスマホがブーンと振動し始めた。

「もしもし」
『吉川いま何してんの?』
「ショッピング中〜」
『あ、マジ?誰かつかまったんか。』
「残念、ひとりだよ!!」

きのうの晩、花巻にも遊べないかどうか連絡していた。先約があるとかなんとか言ってたからてっきり今も忙しいのかと思っていた。でもそうでもないみたいだ。

『お。じゃー、ちょうどイイわ。どうせ駅んとこだろ、これからオレら車で拾って。』
「オレら、って?他に誰かいるの?松川くん?」
『おしい!』
「は?」
『駅のロータリーで待ってるからヨロシク〜。』

通話がぶつっときれる。おしいって何だろう。松川くんがおしいって何だろう。本当になんだ?えっ、わかんないんだけど!高校時代に、花巻と仲良しの松川くんとちょっと仲良くなって、すごくたまにだけど今も3人で遊んだりする。けど、松川くんは別な大学だし、そっちに共通の友達いないしなあ。とりあえずショッピングモールの駐車場から車を出して、駅のロータリーへ向かうことにする。タクシーやら迎えの車やらで混雑している駅のロータリーに到着して、空いてるスペースを見つけて車を横付けた。花巻に着いたことを連絡すると、「見っけた」と返信がくる。どこからくるんだろう。ちょっとだけかがんで助手席の窓から外を見ると、何やら大きい袋を片手に持った花巻がニヤニヤしながらこっちに向かってきた。助手席のドアを開けたかと思えば、やたらがちゃがちゃ言う袋を後部座席のシートの上に置いた。

「うおっ、狭っ。なんで助手席こんなさげてんの?」
「何それ酒?多すぎでしょ。ていうか松川くんは?」
「ザンネン。川違いなんだなこれが。」
「はあ?」

ドアの扉に腕を置いた花巻は、首だけ曲げて後ろを振り向いて「こっちこっちー!」と誰かを呼んでいる。川違いって言われて思い当たるのなんてたった一人しかいないって。

「えっ、吉川ちゃん?!」
「…及川なら及川だって言えばいいのに。」
「ハイハイ乗ったー。及川は助手席ね、丁度助手席下がってるし。」
「実習終わりに何度か送ってるからそのまんまなだけだよ。」
「へーえ?」
「何なのマッキーその顔!」
「いいから乗れって。オレ向こうから後ろ乗るから。」

180越えの男を乗せた上に、結構な量の酒を積んでる。わたしの車、こんなに重量級になったの初めてじゃないか…?これスピードでるのかな、いつもよりふかさないと進まないんじゃ…!なんとかロータリーを出て、交差点の方まで進んだ。

「これ無理だよ!」
「オレ代わろっか?車寄せてくれたら変わるよ!」
「いやいや、椅子さげたりめんどくさいからいいよ…がんばれわたしの愛車ちゃん。」
「何これ新しい下着買ったの吉川。」
「開けたらころす。」
「えー、なになに可愛い下着見せる相手でも見つかったんだー?」
「オッケー花巻ここで降ろす!」

ミラー越しに睨みつけてやると、痛くもかゆくもなさそうな顔で笑っている花巻が見えた。

「今日は部活じゃなかったの?」
「えっ、オレ?」
「なに、寝てたの?はやすぎ〜。」
「いやいや寝てない寝てない!だってマッキーと話してたじゃん。」
「ヤツはもういないものとすることにした。」
「あ、そう。」
「なんだよ遊ぶ相手見つからなくて寂しがってたくせに!」
「あーあー何も聞こえない!……で、部活はやく終わったの?」
「今日は午前練だったんだよね。午後も練習しようとしたら女バレの練習試合で使うって言われちゃってさ〜。そんでマッキーも午前練だったから一緒にご飯行こうってなって、そのままの流れでマッキーんちで宅飲みすることになったんだよ。」
「あー、それでわたしをタクシー代わりに呼んだわけね。」
「荷物持ち呼ぶって誰かと思ったら吉川ちゃんの車あるから及川さん吃驚しちゃった。まっさか女の子をタクシー代わりにするなんて、ねえ?」
「ねー!ひっどい奴だ花巻って男は!」
「そうだそうだ!」
「これは慰謝料をもらわないとだね。ザンリオビューロランドのチケット買ってくれたら許してあげないこともない。」
「えっ、それ関東にしかないよね?しかも高くないかな吉川ちゃん。」
「オレはもういないものなので何も聞こえてない。」
「とりあえず、下着の紙袋を持つのやめてよ!」

酒瓶を乗せたシートの足元に紙袋を置かせて、何色を買ったのかしつこく聞いてくる花巻を適当に流しつつ、車を走らせた。途中の坂道とか不安な所はいっぱいあったけど何とか花巻のアパートに到着できてよかった。

「はいご苦労様ー。」
「ほんとに何様〜?」
「いやほんとありがと吉川ちゃん。」
「ていうか駐車場いれなよ。吉川も飲むっしょ。」
「えっ、いいの?」
「むしろそのつもりで呼んだんだけど。」
「マッキーわかりづらすぎ!」
「うっせ。岩泉も来るけどへーき?」
「岩泉くんって、及川の相方の?」
「あ、知ってんだ―。」
「話したことないけどね。」

アパートの裏にある駐車場に車を置いて、荷物を持って歩き出した。下着の袋まで降ろそうとする花巻の頭に及川がビシっと突っ込みをしていて、及川が突っ込みに回るのが珍しい気がして思わず笑ってしまった。っていうかそもそも、珍しいとか思う以前に及川のことそんなに知らないもんなあ。

「っていうかさー、岩泉くんの方はわたし居ても平気なの?」
「いんじゃね?特に何も言ってないけど。」
「たぶん平気だよ〜。別に女の子怖がるタイプでもないし。」
「あっそう。じゃあ、いいや。」





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