箱庭に錠をかける人
月とすっぽんという例えはよく聞く。確かになぁ、と納得してしまう程度には眼福な顔を昔から眺めることができた。そして、その綺麗な顔の中身はあんまりよろしくないことも知っている。

「吉川さんってもっと面白いんだと思ってた」
「はあ」

どちらかと言うと奇妙で小さな呪霊たちを侍らせてることに気が付いてないお前の方が面白いよ。フラペチーノをズゴゴゴと飲み続けながら、目の前で語り続ける男の話をなんとなく聞いている。ふんふん、白髪のイケメンに言い寄られてるって聞くから実は面白い子なんじゃないかと思ったと。フーーーン?要するにお前の顔は平均もしくはそれ以下にも関わらず顔面偏差値上位の男が付き纏っているということは何かあるんじゃ?なんて思い込んだわけだ。迷惑極まりない!

「え〜?それオマエみたいな奴が言っちゃってイイの?どう思うよ傑」
「自信を持つことは良いことだと思うよ。ただ実力が伴わない自信は持っていても無駄だろうけどね」
「ハハ、とりあえず人の事とやかく言える顔してないって言ってやればいいのに」

なぜ高専の人間がここにいる……

*

「ダッセー!あいつの逃げ方見た?ねえ、紗希乃見た?」
「見ました見ました」
「なに、ほんとにちゃんと見た?つーか、お前あんなクソダサ男とこんなとこで何してんだよ」
「相談があると言われたので来たんですよ」
「なんの相談だと思ったわけ?」
「肩で楽し気に盛り上ってる呪霊のことかと思いまして」
「あんなん何の害もねーだろ」
「見えて悩んでるとかだったら窓に引き込もうかと思ったんですけどねぇ」
「あんなんすぐ死ぬだろ」
「まあそれはともかく。……あなたたち学校は?この時間に外にいるってことは任務なのでは?」
「「「……」」」
「今日の補助監督は誰かなぁ。2人くらいなら連絡先知ってるからどっちにも連絡しちゃおっと」
「は?!なんで補助監督と連絡先交換してんの?!」
「貴方がこうして姿を晦ますからに決まってるでしょうが!」

あ、もしもし?もしかして3人組探してません?あっはっは大当たり〜。そうそう、そこからすぐのスタバに揃っていますよ。はーい、申し訳ないですねいつもいつも。

「いいですか、悟様!それとご同輩のお二人!補助監督を撒くのはこれっきりにしてあげてください」
「へーい」
「それこないだも聞きましたよ悟様。返事をしたからには守って下さいます?」
「こういう時ばっか年上ぶんなよ」
「年上というか使用人として言ってますが?」
「使用人ってもっと主人の言い分聞くんだと思ってたけど、このお姉さん五条相手にちゃんとしてんね」
「口うるさいだけだし〜〜」
「だって、正式な主人はご当主様なので。そのご当主から悟様のことは色々と仰せつかってますからね」
「あんなジジイすぐに引きずりおろしてやるよ」
「そういうのは引きずりおろす準備が整ってから言ってくださいな」
「……悟が当主になるのは否定しないんですね」
「え?まぁ、なるでしょうからねぇ……その時に私がどうなっているかはわかりませんが、術式と眼を持っている上でいつまでもプラプラされても」
「安心していいよ。ちゃんと好待遇で迎えてやるからさ」
「はいはい、期待しないでおきまーす」

お迎えが来たらしいので、3人を店の中から見送った。窓越しに手を振る悟様と同級生の女の子に、会釈をする男の子。悟様から送られてくる自撮りによく映っている二人だ。ちゃんと会ったのは今日が初めてだけども、姿が見慣れていたので違和感なく接してしまった。……ちゃんと挨拶してないな?とはいえ、私のことはちゃんと知ってるみたいだった。それにしても。

「好待遇で迎えるって、私はこれからもずっと悟様の使用人をやり続けなきゃいけないのか……」

- ナノ -