かざはな

『おねーさんたち何でいつもおかしもってるの』
『それはね、女の人はいくつになっても甘いものとかかわいいものが大好きだからよ』
『甘いものと、かわいいもの?』
『あらあら首を傾げちゃって賢二くんったら可愛いねぇ。いつもより多くお菓子あげちゃおう』
『今日は私が賢二くんとお話する日ですよ先輩!私もひとつ多くあげるね』
『少しくらい良いじゃなーい!初等部に上がってから賢二くんがあんまり来てくれなくって寂しいんだもの』
『おれ、いっぱいくるよ』
『あらあら。』
『そんなこと言っていいの賢二くん?最近はお友達といっぱい遊んでるそうじゃないの』
『ともだち?』
『あれれ、ちがうの?お家で伊代ちゃんとお友達と三人で遊んでるって院長言ってたけれど』
『あいつは友だちじゃないよ』
『じゃあ、その子は賢二くんのクラスメイト?』
『おんなの子だからちがうし』
『女の子なの?!なーんだ、そうだったの。それなら賢二くんにもうひとつお菓子をあげよう』
『なんでくれるの?』
『女の子は、甘いものとかわいいものが大好きなのよ』




『手ぇだせ』
『なーに。いも虫ならいらないよ』
『あんなきもちわりーのだれがもつかよ!』
『このまえ公園で会ったおとこの子がいも虫くれたんだもん』
『きもいな』
『ねー、びっくりしたー』
『おれはそんなことしない。なんていったってかわいいからな』
『じぶんのことかわいいっていうの、いよちゃんとけんじくんしか見たことないなあ』
『まわりはかわいくないからな』
『うーん。そう?なのかなあ?』
『それよりはやく手だせよ』
『こちょこちょもなしだよ』
『しねーよ。ほら、これやるよ』
『わあ!おかし!』
『伊代にはナイショな』
『ママには?!』
『言ったらおこられるにきまってんだろばーか』
『おー、そうだね。けんじくんの言うとおりナイショにしなきゃ』
『なんかおまえ、すっげーへらへらしてるな』
『だって、おかし大すきだもん』
『ふーん。じゃあ、おれは?』
『けんじくん?』
『おんなの子はあまいものと、かわいいものがすきだっておねーさんたちが言ってた』
『んー…あまーいおかしと、ピンクのふわふわはかわいくてすきだけど、けんじくんはかわいくないよ?』
『えっ』


『けんじくんは、かっこいーからすき!』



.
.
.


*




「ねー、ちょっと聞いてるー?!」
「…あァ、聞いてる聞いてる」


危ない、一瞬寝てた。夜更かししてるわけでも疲れることをしてるわけでもない。ただ、外はこれまでと比べて格段に寒さが厳しくなってきて、部屋の暖房の温度が上がっている。それで心地よくなっただけだ。…電話の相手を思い出した途端に面倒くさくなって切りたくなる。くそ、あのまま寝ときゃよかったか。


「でね、ヤマケンくんのおススメがあったら教えてほしーなーって」
「あー…なんだっけ、何のおすすめの話?」

やっぱり話聞いてないんじゃん!と非難されたが仕方がない。ぶつぶつ文句を言っている電話の向こう側の相手は、バレンタインだの誕生日だの何かにつけてプレゼントを寄越してくる女のなかの一人だ。行事なんて、近々何かあったっけか。……あれだ。クリスマスだ。それすらも思い浮かべられないほど干からびてんのかオレは。認めたくないが、実際のところ、去年とは比べものにならないくらいどうでもよくなっていた。

「だーかーら!アメリカでおススメのお店あったら教えてよって話!」
「アメリカっつっても広いだろ。どこだよ、ニューヨーク?」
「あれ、どこだっけ…詳しいとこは聞いてないわー」
「ハア?行くのに知らねーの」
「やっぱり話聞いてないじゃん!行くのはわたしじゃなくて、わたしの友達だってば!アメリカに留学するから、向こうで買い物して送ってくれるって約束したのよ!」

それにしてもよく怒る女だ。通話口を耳元から遠ざけても女の声は余裕で耳に入ってくる。うるせーな。だいたい、店なんか自分で調べられるだろーが。あーでもないこーでもないと次々話しかけてくる女の声を聞き流しながら、意識はぼんやりと別なところにいっていた。さっき、夢に見た出来事。本当にあったことか、オレの脳内で創り上げられた創作か実際のところ曖昧だ。あいつがオレの事を好きなのかもしれないと思い込んだから、そんなこともあったかもしれないと適当にイメージしてるだけかもしれないしな。…それにしても、ナースのお姉さんたちはいやにリアルだったのが気にかかるけど。

結局、水谷さんにふられたことは、本人やその他大勢の話からあいつの耳に入ってくるだろうから報告していない。オレがちゃんとふられたことを知ったら何かしらの動きは見せてくるかと思ったが、全くない。学校が違うからあいつがどうしてるかも知らないし、本当のところオレのことを好きなのかさえ怪しいレベル。少しでも好意を抱いていたら何らかのアクションは見せるものだと思うんだが。いや、べつに待ってるわけじゃない。…そうじゃないんだけど、他人に発破をかけておいて素知らぬふりしてんじゃねーよ、そう思った。


「で、ヤマケンくんはどっちが好みー?」
「……最初の方」
「まじで言ってんの?いつからそんな清楚好きになったのよ、ネコ被ってんじゃないの」

むしろお前がネコ被れこのくそ女。いつの間にそんな話してたんだよ知らねーぞ。

「真面目で誠実そうな女ほど、中身なに抱えてるかわかんないんだからね!」
「まー、それは確かに一理ないわけでもない」
「え、もう引っ掛けちゃったの」
「引っ掛けてねーよ、向こうからくんだよ」
「もうほんと自意識過剰なんだから」
「…甘いものと、かわいいもの。これ聞いてどう思う?」
「わたしにくれるの?!」
「……」


今のあいつは、何て答えるんだろうか。

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