2/14と3/14のおはなし

鋼鐵塚蛍



「おい、うんと極めの細かい猩々緋砂鉄を寄越せ」
「何遍言わすの蛍ちゃん。お代を先に頂戴よ」
「名前で呼ぶな」
「蛍ちゃんこそ名前で呼んではくれないの」
「お前が呼ぶから呼ばない」
「蛍ちゃんが呼ばないなら尚の事呼んであげる」
「この性悪女」
「何とでも。さあ、お代を先にね」
「お前、俺が金も置かずに逃げると思ってんのか」
「忘れた事あったでしょう。だから、先に頂戴って言ってるの」
「そんな昔のこと忘れちまった」
「私は昨日のことのように覚えているよ」
「んなもんとっとと忘れちまえ」
「アンタが静かな刀鍛冶に成っていたのならとっくのとうに忘れてた」
「成れもしねェもんを目指すかよ」
「憧れるくらいの可愛げがあったら良いのにねえ。勿体ない勿体ない」
「金は出しただろ、さっさと砂鉄を寄越せ」
「全くせっかちで仕様のない男だね。はいはい、ちょいとそこへお座りくださいな」
「何でだよ」
「どうせ、うんと極め細かいのを頼んだだろって駆け込んでくるんだ。だったら先にもっとふるいに掛けておくとしましょ」
「あるくせに出さねえのが悪い」
「はいはい。時間はかかるよ」
「口を動かすんじゃなくて手を動かせ」
「そのひょっとこの目は埋めてるの?ちゃあんと動かしてるじゃない。騒がしいからこれでも舐めといて」
「何だこりゃ。飴か」
「そうよ、飴玉。大きいでしょう。特別大きいのを分けてあげるから黙って頬張ってなさいな」
「ふぉんなにほほひくへぇ」
「何言うの、そんな大玉そうないよ。爺様方は猩々緋砂鉄を買いに来た時に土産を持ってきてくれるのに、アンタときたらいっつも手ぶら」
「ふぁんごもっへふるらろ」
「自分がみたらしを食べたい時だけでしょ」
「……十分だろ」
「あ、せっかくの大玉を噛んだわね!」
「砂鉄も飴玉も大きすぎちゃ意味ねぇよ」
「丸飲みしてるのと変わらないじゃないの」
「丸飲みしたら喉に詰まるだろう」
「それだけ大きな喉仏を抱えてるんだからそんなのひと飲みでしょう」
「喉仏は嚥下に関係ねぇ」
「そうなの?」
「知らん」
「私もお医者じゃないから知らない」
「紗希乃」
「……何よ」
「飴玉もうひとつくれ」

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