2/14と3/14のおはなし

鳥養繋心



「あっれぇ、鳥養君だ」
「……吉川?」
「すごい久しぶりだね。店番してなきゃ一瞬誰かわかんなかった」
「そっちこそわかんなかったよ。会うの卒業以来じゃねぇ?」
「やっぱそう?今めちゃくちゃ記憶掘り起こそうとしてたんだけど黒髪の鳥養君しか思い出せなかったんだよね」
「東京にいるんだったよな。いつ宮城帰って来たんだ?」
「一昨日。さてはうちのばーちゃんが何か言ってるな?正月休みとれないからずらして2月にしたの」
「もう正月じゃねぇじゃん。あとお前のばあちゃんはめちゃくちゃ孫自慢がすごい」
「恥ずかしいんだけど!」
「俺じゃなくてばあちゃんに言え」
「だめだめ。ばーちゃんボケてる振りして現役バリバリだから知らんぷりする」
「まじで?同じ話ばっかするからボケてんのかと思ってたけど」
「それは年相応ってやつだよ」
「まあスマホ持ってたしな」
「時々変な写真送られてくるよ」
「へ〜どんなん?」
「こーゆーのとか」
「これうちじゃね?」
「そうなの?」
「そんでおそらくそのオレンジ色のぶれまくってるのが俺の教え子」
「教え子?鳥養くん店員さんじゃないの?」
「これは手伝いなんだよ。今は烏野男子バレー部のコーチやってんだ」
「うっそ、まじ?」
「マジ」
「烏野いますごいって聞いたよ、え〜、すごいじゃん!」
「ばあちゃん情報?」
「そ。うちのばーちゃん情報。すご。知り合いがそんなすごいことしてるのびっくり」
「いい生徒が集まっただけだよ」
「それでも悪ガキまとめるの大変じゃん。すご〜」
「つーか、買い物いいのか?」
「忘れてた……。牛乳ある?」
「はいよ。そろそろ無くなる頃だと思ってたわ」
「うちの実家の牛乳消費ペース把握してんの?こわ、」
「お前のばあちゃんが勝手に喋ってくだけに決まってんだろうが!」
「うそでーす。ばーちゃんがボケても安心だわ。たぶん牛乳買ったの忘れてめちゃくちゃ買いに来るだろうからよろしくお願いします」
「おー……。まあ、でも大丈夫そうだけどな」
「今んとこね。……キャッシュレス対応してたりしないよね?」
「だったらコンビニ行け」
「コンビニにこの濃い牛乳売ってないじゃん……」
「熱心なファンがいるからうちもそれを売らざるを得ねぇんだよ」
「ありがとう坂ノ下商店」
「ドウイタシマシテ」
「ごめんね、長話しちゃった。まぁ、お客さんいないから大丈夫そうだけど」
「言うなって割と切実な問題なんだよ」
「これは失礼。にしてもかなり会ってないのにこんなに会話ができるとは……」
「俺もすげーびっくりした」
「ふふ。久しぶりに会えてよかった」
「お〜。どうせ休み長くねぇんだろ」
「そうだよ。明日は岩手の親戚んち寄ってそのまま東京戻る」
「忙しねーな」
「毎日せかせか生きてますので」
「また帰って来る時にでも飲みに行こーぜ」
「お、いいね。鳥養君とお酒って全然結びつかないや」
「吉川は結構飲むだろ。お前のばあちゃん酒豪だから」
「嗜む程度でーす」
「ハハ、それは酒強いやつの言い方だな」
「あっ、そうだ」
「おー、どうした?」
「知ってた?今日ってバレンタインなんだよ」
「知っちゃいるが、こんなとこで店番してんだから察しろよ」
「お互い様だねぇ」
「お前も独り身なわけ」
「彼氏がいたら、ようやくとれた正月休みをわざわざばーちゃんのおつかいにあてたりしませ〜ん」
「そりゃそうだ」
「はい、ハッピーバレンタイン。わたしからのチョコレートのおすそ分け」
「おうサンキュー……って、お前これリキュールチョコじゃねーか」
「うん。だからお仕事終わったら、味わって食べて頂戴な」
「へいへい、ありがとよ」
「じゃあね」
「おー、またな」


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