819!!の日(2018)



打ち上げろ、夏

夏というものはどうしても浮足立ってしまうものだよなあ。なーんて、傍観者を気取ってる人みたいなことを思ってみる。

「手持ち花火組は向こうの遊具少ない方行ってねー!」
「吉川さんはどれやる?」
「騒がしくないのがいいな」
「なにそれー!」

おばあちゃんみたい、だの最初は激しく行こうだの次々とクラスメイトに花火を手渡される。えっこれ手持ちじゃなくない?こんなにいらないよ、と返そうとしても騒がしくなっていく中でわたしの言葉はかき消されていった。……仕方ない。花火の在庫置き場に今まで抱えていた花火をばらばらと落とす。ふと、端っこの方にある包みを見つけた。細いビニールの中へひっそりと束ねられている線香花火。そんなにいっぱいやらないもんね…と、こっそり3本だけ取り出して遊具の裏へと隠れるようにしゃがみこんだ。

クラスで集まって花火大会をやろうという話になったのは終業式の日だった。いつも一緒にいる子たちが一緒に行くならと参加にマルをつけてきたのはいいものの、実際に来てみればこれだ。
裏切りそのいち、彼氏とデートいれちゃったー!とはしゃぐ友人A。あんたが一番行きたがってたんじゃん〜〜!裏切りそのに、家族旅行に行くことになった友人B。まあね…家族旅行はどうしようもないよね…お土産よろしく…。裏切りそのさん、急におなかの調子が…!と青ざめて途中帰宅する友人C。アイスとスイカ三昧生活を送ってたのをわたしは知ってるんだからな……!と、きれいに友人たちが来れなくなってしまった。しかも当日。夕方くらいに連絡きた。もっとさあ!はやくさあ!連絡してくれたらさあ……!という皆への苦情は誰にも届かなかった。いっそのこと君たちを花火にして打ち上げてやろうか……!なんて冗談を言いたくなるくらい。大丈夫、泣いてない。

「なんだっけ、あれ……なんか怖いやつで似たようなのあった気がする……」

わたしのボソボソ呟く声と同じくらいの音を立てて線香花火がシュワシュワ燃えていた。あっ、結構消えないで頑張ってる。いいこいいこ頑張って大きくなるんだよ。

「そうだ、お前を蝋人形にしてやろうか!だっ」
「たぶんそれ怖い話じゃないと思うよ」
「えっ、」

ぽとり。線香花火のまるい光が地面に落ちる。遊具から顔だけ出してこっちを覗き込んで来たのはバレー部の赤葦くんだった。彼は一度振り返ってから、静かにわたしのとなりにしゃがみこんだ。

「赤葦くん?」
「仲間にいれてくれない?部活帰りに寄ったんだけど、みんな元気過ぎてちょっと疲れた」
「いいよ。わたしも向こうは疲れちゃうからこっちにいたの」
「ありがと。吉川が一人でいるの珍しいね」
「うん。みんな急に来れなくなっちゃって」
「ああ、それで蝋人形にしてやろうと……」
「いやそれは!それは誤解で!」

明らかにからかわれてる。ひとりで笑い続ける赤葦くんに押しつけるように線香花火を手渡した。

「ほら、これやろうよ」
「くれるの?」
「うん。だからもう笑わないでよね。笑ったら、すぐに火が落っこちて終わっちゃうんだから」
「……すぐに終わったらもったいないしね」
「でしょー?せっかく花火やりに来たんなら楽しまなくちゃ」
「ひとりで寂しく線香花火してた人がそれ言うんだ」
「……」
「ごめんって。睨まないでよ」

赤葦くん、こんなにいじわるだったっけ。暗い中で見つめる赤葦くんは普段と違ってなんだか別人みたいだった。そういえば、距離が近い。すぐとなりに感じる熱が、真夏の空気だからなのか、人ひとりの体温がそこにあるからなのか、気付いてしまったらやけに熱く感じてしまう。線香花火に火をつけた。2本になった線香花火はさっきよりも大きな音でシュワシュワ騒ぐ。手持ち花火組が打ち上げ花火をやり始めたらしく、ひゅるひゅると煙の上がる音が耳に届いた。ほんのすこしだけ、周りが明るく照らされる。いつもと違う赤葦くんの顔が照らされて、なんだかちょっと気恥ずかしい。

「ねえ、吉川さ、」
「んー?」

「このあと二人で抜けない?」

ぽとん。ぽとん。呆気なく落ちたのは二人の線香花火。そして、それから―……


「線香花火のリベンジ付き合ってくれるなら、いいよ」
「もちろん」









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