春べを手折れば

上方修正願います

「出た謎メンツ焼肉」
「どっかの誰かさんの快気祝いの予定だったが気が変わったな」
「待って待って諏訪さん!食べる!人のお金で食べる焼肉だいすき!」

大規模侵攻から少しばかり日が経った。今日が退院してから初の通院日。レイジさんの送り迎えという好待遇で、右脇腹と背中にある右肩から腰にかけての傷の経過を見てもらってきた。帰りの車の中で「このまま焼肉にでも行くか」と魅力的なお誘いをしてくれたレイジさんに感謝しながらついてきた先に待っていたのは、いつぞやに見た顔ぶれプラス雷蔵さん。

「端の方が良いな?」
「うん。ありがとうレイジさん」

痛いかどうかで言ったらわりといつでも痛い。だけど、日が経つにつれて痛みが穏やかになっている……とは思う。慣れと思い込みかもしれないけど。ここのところ持ち歩いてるクッションを背中側に差し込んで、少しでもマシな位置はないかともぞもぞ微調整をしていれば、その場にいた全員がこちらの様子を伺っているのがわかった。その中で風間さんが小さくため息をついてから声を発する。

「……傷の経過は?」
「悪くないよ。大部分が塞がり始めてるし」

例えば上腕に綺麗な太刀筋が入っていたのなら、もうすでに全体に膜が張り終えているんだと思う。けれども私の傷は瓦礫と擦れてできていたり、深さも場所もまちまちで、何なら関節付近にもあったりしてる。普通の動きをしているだけでずれるわけ。そりゃ治りもわるい。斬った斬られたを繰り返しているせいでみんな傷口の違いやら何やらも詳しい。私の返答で状況を察したらしい皆さんは揃って神妙な顔してる。前の焼肉会の時もこんなだったっけ。

「何も気にしなくていいのに」

ポロリと口から零れ出た私の言葉に続くように店員さんが肉やらウーロン茶を運んできた。手伝おうと無事な左手を伸ばしてみると、左隣りにいる風間さんに止められた。ガチャガチャとテーブルの上の物が整理されていくのを仕方なく眺めていると、斜め向かいに座っている雷蔵さんと目が合う。

「気にするよ」
「いいのに」
「そういうんじゃないよ、吉川」
「俺らが勝手にあん時のおまえを思い出して気にしてるだけだっつーの」
「えっ」
「ハラミと牛タンどっちだ」
「えっ、なに、ハラミ……?」
「ハラミだな。木崎、ハラミの皿を寄越せ」
「どちらも焼けばいいだろう。次に来るのはカルビと豚トロだ」
「ハラミでもカルビでも何でもいいんだけど、なに?あん時のって、」
「吉川を瓦礫から引きずり出したのが、俺以外のここ3人だそうだ」
「うちの菊地原もいたぞ」
「……知らなかった」
「恩着せがましくなるから普通言わないよ」
「感謝してほしいわけじゃねーよ。俺らがあん時の記憶をんなこともあったなって思えるくらい、元気になったおまえを見て上書きさせろってこった」
「というわけで肉だ、吉川」
「良かったな。こいつらが気が済むまで何度でも焼肉を奢ってくれるらしいぞ」
「痩せたいって言っても焼肉ね」

ポンポンと繰り広げられる会話に瞬きをするしかできなかった。肉の焼ける音と、ちょっと複雑そうでいて、どこか安心したように笑う4人の顔を見比べた。

「みんな、ありがとう……」
「そういうのは食い終わってから言え。ほら、皿。雷蔵、皿とってやって」
「はいよ。その皿もらうよ吉川」
「ありがと、雷蔵さん」

せっせと肉を焼いていくレイジさんに、空いた皿をまとめる風間さん。諏訪さんは隙間隙間で手伝いをしながらもうまく肉を摘んでいて、私は雷蔵さんと揃って肉をひたすら食べている。

「そういえば、雷蔵さんもしかしなくてもトリオン体?」
「うん。トリオン体」
「お前はいい加減痩せろよ雷蔵」
「まあその内に」
「言ったな?」
「吉川のリハビリにコイツを差し出すか」
「良い考えだ」
「やだよ、あんまり一緒にいたら迅がめんどくさいでしょ」
「なんで?別にめんどくさくないでしょ」
「いや……」
「まあ……」
「俺は何も知らねーぞ」
「逆になんでめんどくさくないと思ってるんだ吉川は」

また溜息をついた風間さんが、ウーロン茶の入ったジョッキに口をつけながらこっちをじっと見てきた。めんどくさい、っていうのはあれだ。悠一が雷蔵さんにやいやい何かを言ったりするだろうってことだ。

「……言わなくない?これまでも別に言ってたわけじゃないじゃん」
「まあ、言わないだろうな」
「うん。言ってはない」
「言わねーだけだろ」
「これまではそうかもしれないが、これからはわからんだろう」
「……これから?」
「そうだ。今までは表立った牽制はしないようにしてたんだろうが、この先はどう出るか見ものだな」
「これまでと変わらないように見せかけるのに必死に1票」
「じゃあ、俺はめちゃくちゃ口出すに1票〜」
「これまでと変わらないように見せかけたいけどめちゃくちゃ口が出て丸わかりに1票だな」
「まるで賭けになってないな」
「あの、あのあの皆さん……?もしかしてなんですけど、」
「なんだバレてないとでも思ったか」
「ぅえっ、バレ、バレてないって……」
「迅と付き合ってるんだろう、吉川」
「っ……?!?!」
「おーおー混乱してんな」
「まあ、付き合ってない方がおかしい距離感だったし別に変じゃないよ」
「俺にはちゃんと報告してほしかったけどな。普通にわかったが確信がないと気まずいだろう」
「……もしかして、カマかけた?」
「9割進展してると踏んでたから、ほぼ確信していたが?」
「うわあああ。まだ、まだ誰にも言ってないのに……!」
「誰にも?林道さんにも言ってないのか?」
「言えるわけないじゃん〜〜!小っちゃい頃から知ってるんだよ?」
「どーせ気づいてんだろ」
「わかりやすいしね」
「どこが?!」
「迅が」
「えっ」

上方修正願います


戻る
- ナノ -