拍手ログ きょういくきかん


「やだああああああ」
「吉川、鼻水」
「ううぅ……」
「こら、ティッシュを地面に捨てるんじゃない」

本気でこいつの声帯は改造マフラーなんじゃないだろうか。なんて馬鹿なことを思いながらだらだら流れ出る鼻水をかんでいる吉川の頭をぐりぐり撫でる。子供特有の柔らかい髪が絡まっているのを直してやれば、「おいてかないで」とずびずび泣いて俺の手に抱き着いた。

「吉川、もう一度確認だ。今のお前は?」
「ずびっ…ろ、6さい……」
「我々の日本において6歳が受けるべきなのは?」
「ぎむきょういく」
「そうだ」
「でもっ、わたしもうすでに終わったし何なら大学もでたしっ」
「残念ながら今は何の説得力もないよ吉川」
「うそだあああ」

ピンク色のランドセルを背負った子供がとうに成人してるなんて誰も思うまい。抱き上げて無理やり職員室にでも置いてこようかと思ったが、さっきまで腕に抱き着いていたのが足元をちょろちょろ逃げ回り、挙句の果てに足にしがみついて歩かせないようにしてきた。くそ、絶対負けないからなお前ごと前に進めてやる……!むりやり足を持ち上げて、ギリギリいう足を一歩進めた。

「安室さん?」
「コナンくん!それに少年探偵団のみんなも!」
「朝っぱらから何してんだ?安室のにーちゃん」
「実はね、今日からうちで預かってる子が帝丹小に通うんだ」
「あー!安室さんの後ろにいる子ですね!」
「そうなんだ。ほら、出ておいで……」

少年探偵団が現れてから、後ろに隠れていた吉川を前に出そうとすると全力でしゃがみ始める。お前どんだけ全力なんだよ。埒があかないな、これじゃ。持ち上げようとしていた手をパっと緩めたら、反動でころんと転がっていく。それを拾い上げて少年探偵団の目の前に置いた。

「うぎゃ、」
「この子が今日から転校するんだ。みんな仲良くしてくれると嬉しいな」
「へー!お名前は何て言うの?わたし、吉田歩美!こっちは灰原哀ちゃん!」
「ほら、挨拶するんだ」
「あ、安室紗希乃です……」
「紗希乃って、紗希乃姉ちゃんと同じ名前だね、安室さん?」
「そうなんだ。僕もこの子に最近会ったばかりだけど驚いたよ」
「安室さんと同じ苗字ってことは親戚ですか?」
「ああ。この子の家族が海外に転勤になってね、日本に戻ってくるまでの間は僕が預かることになったんだよ。だから、この子と仲良くしてくれたら嬉しいな」

いいよ!と楽し気に返事されては、涙目だった吉川も子供たちの輪に入らねばならない。少年探偵団に混ざる吉川を見たら、やっぱり子供だな。なんて思わず笑みがこぼれる。

「今日は迎えに来るから、あんまり怖がるんじゃないよ」

こくこくと頷く吉川をひと撫でしてから子供たちを見送った。歩美ちゃんに手を引かれつつ、ちらちらと振り向くから手を振ってやると名残惜しげにやっぱり涙目だった。

帰りに迎えに来てみれば楽しそうに少年探偵団に混ざっているのを見て、やっぱりあいつは心も全部子供に戻ったんじゃないかと少々心配になった。まあ、泣かれるよりはいいんだが。

「降谷さんっ、今日ね、友達いっぱいできましたー!」
「そうか。これで休みの日も遊ぶ友達ができたな」
「はいっ」

ああ、やっぱり子供だ。

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