拍手ログ おしごとしよう


「子供なのに仕事させるなんてあたまおかしい!」
「勝手に小さくなったお前の体がおかしい」
「ううーん、だって急になっちゃったんですもん。わたしのせいじゃない」

スーツの男どもに混ざっている幼女の図はどれだけおかしいのだろう。見てみたいけど、当事者じゃ眺めることはできない。イスの高さを目一杯高くして、誰かのおみやげのクッキー缶を置く。それからクッションを敷いてやればわたしの特等席の完成だ。たぶん6歳くらいのはずなんだけど、わたしってこんなに小さかったかなあ。まさか4歳か5歳なのかな。本当に幼かった頃を思い返してもわからなかった。そもそも体格の自覚を幼児に求めるのも難しいか。指をどんなにめいっぱい開いても前みたいにスムーズにキーボードを打てない。傍から見たらピアノの鍵盤を一生懸命叩いているみたいに指先だけじゃなく手自体を動かしてなんとか文字を打っていく。

「ねえ誰かキーピッチ狭いの持ってないのー?!」
「俺が探してくるよ吉川!」
「いや俺が」
「俺がいってくる」

わざと超音波みたいな声で叫んでみれば、先輩方が一斉に立ち上がって倉庫へと駆けて行く。それに怒号をとばす風見さん。わたしが小さくなってから似たようなやりとりが繰り返されていた。なんだってみんなわたしが小さくなった途端に可愛がるのさ。前もそこそこ可愛がられてたとは思わなくもないけど、小さいだけでこんなに態度がころりと変わるなんて!

「つーかーれーたーあああ」
「ほれガムやるよ」
「辛いのイヤーっ!」
「一服いくか?」
「いくーっ!」
「子供だぞ馬鹿か!」

わたしは大人だもん。足をバタバタさせてみればイスの上に置いた缶がべこべこと音をたてて背もたれの方へずれてく。ちっちゃくなったお尻はクッションごと椅子から落っこちた。

「ぴぎゃあああ」
「うげ。おい誰か吉川黙らせろ」
「おーい泣きやめ吉川〜」
「元のお前はそんくらいじゃ泣かないだろ〜」
「もっどちゃんとなぐざめでようううう」

さっきまで構ってくれてた先輩たちはみんな困った顔して知らんぷり。みんな裏切り者だ。みんな少しでも手に余ったらそうやってほったらかすんだ。……降谷さんは?降谷さんも困ったらほったらかす?わたしのこと捨てちゃう?お前なんかいらないっていう?

「ふるやさんにぎらわれるううう」
「誰が誰を嫌うって?」
「降谷さんが、わたしのこと、きらいだって」
「そんなこと言ったことは一度もないんだけどね」
「ふ、るやさん……!」

お迎えだお迎えが来たぞ!と先輩達が沸き立っている。降谷さんが尻餅をついたままのわたしを抱き上げる。背中をぽふぽふと叩かれてあやされる。ぐずぐず鼻が鳴るけれど、おかまいなしに降谷さんの方にぐりぐり顔をこすりつけた。汚いからやめろって風見さんに引き剥がされるけど、風見さんの手を力いっぱいはたいてやる。

「今さらなんなの!」
「なんで昼ドラみたくなってるんだよ」
「吉川、仕事はもういいから帰ろうか」
「もうやんなくていいんですか?」
「帰ってからでいい」
「結局やるんじゃん!おに!」




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