憧憬/降谷零


太陽を掴む事ができたら


信号待ちをしている間にイヤフォンの回線はコナン君の方に繋いでおき、スマホを車内ホルダーに固定する。それから程なくしてスマホに届いた位置情報のデータは、ざっと数えても50はあって眩暈がしそうだった。

「2か所って言ったのに、どうなってる?!」
『すみません、あまりにも数が多くて……!』
「現時点の総数は?」
『60、65……推定100到達する可能性有り』
「完全にテロじゃない!!」

これで同一犯じゃなかったら本気でまずいでしょうが。スマホ、洗濯機、電子レンジ、ジ、圧力鍋……大体同じだ。そんなのどの家庭にもあるし、店にだって置いてある。100到達って、余裕でこえちゃいそうだ。通信司令部が機能してるかも怪しい……。この時間のこの道はそこまで混雑しないのにこの交通量……テロの影響で渋滞が起き始めてるな。下手に動くと今後動きにくくなりそう。部下が読み上げていく被害総数がどんどんと膨らみ続ける。……完全に身動きがとれなくなる前に幹線道路から外れよう。

『目暮警部、きっとこれは全部IOTテロだよ』

信号が変わり、動き出した流れに沿って車を発進させる。スマホからの部下の声をかき消したのは、イヤフォンから聞こえるコナンくんの声だった。

『犯人はネットにアクセスできる電化製品を無差別に暴走させてるんだ!!だから、ネット接続を切れば暴走は止められるよ!』

なるほど。ネット接続している電化製品が標的なのであればプロバイダーを通してネット接続の供給を止めてしまえばいい。ただ、すべてのネットを遮断してしまったらそれはまた別の影響が出てしまう。サミット会場の爆破がIOTテロによるものだとしても、あの規模の爆破を起こすにはかなり条件が必要だった。入念な準備のない、無差別なテロであればひとつひとつの被害は小さい。ネット全体を遮断して別の混乱を招いてしまったら二次被害が拡大していくだろうし、最終的な被害の大きさで考えるならきっと……

「もうじき"上"から指示が出ると思います。それまで、被害規模の大きい順に場所をピックアップしておいてください」

*

街頭ビジョンから緊急速報で流れるニュースは先ほどコナンくんの声できいたものと同じだった。ひとまず上からの指示は、通信司令部の混乱による未確認の被害の特定だった。被害規模の大きな場所は刑事部の方で既に把握している。だから、私達が手伝うのは”次に”大きくなるだろう場所の特定作業。すでに向かわせている部下たちからの報告と、通信司令部からのデータを擦り合わせる。

「6分後に消防が到着予定。そこから800メートル西にある商業施設付近の情報よろしく」
『了解』

幹線道路から外れた住宅街の手前にある、コンビニの駐車場。渋滞から抜けようと遠回りしてきた車たちが行き交う騒がしさはあるけれど、街中のような被害はない。現に別地区管轄の消防が集まって行くのは大体同じ方面だった。通信司令部のもつ被害箇所にピンを挿したマップと、それを元に隙間を埋めていくうちの持つマップを並べて見比べる。無差別なんだろうけど、ある程度エリアは絞られてるみたい。特定の対象にこだわってるわけじゃなくて場所に条件がある感じか。被害が集中しているエリアのスクリーンショットを撮って降谷さんに送付する。すると、降谷さんからスマホに着信がきた。スピーカーで出ると、コンコンコン、と電話口を叩くノイズ混じりの音がする。このまま会話を聞け、ね。

『この情報をサイバー犯罪対策課に流し、捜査会議で刑事部に報告させる』

降谷さんの声に風見さんの声。話が終わったのが一方的に通話が切れた。
Norを使った不正アクセス……NAZUに捜査協力を依頼……。NAZUと聞いて真っ先に頭をよぎったのは、今も生きているという羽場二三一。いや、羽場は降谷さんの管理下に置かれてるんだからこんなことできないだろうな。今もなお集まる情報から、犯人が被害を起こしたいエリアがおおよそ絞れてきた。そのエリア外の消防と救急隊をこっちに呼ぶよう現場に指示を出す。それから風見さんにもエリアの共有をして、すこし遠回りすることになるけど被害が多めのエリアに向かおう。

「警視庁か……」

10分くらい車を走らせた時だった。再び降谷さんからの着信を告げるスマホの画面をタップしてスピーカーに切り替える。

『次の交差点を右折するんだ』
「はい」

GPSで私の位置情報を確認しているらしい降谷さんが、繋がった途端にすぐさま指示を出してきた。

『よくそこにいてくれたよ、感謝する』
「はい?」
『さっき渡した位置情報を覚えているか』
「位置情報って……羽場の居場所のことですか?確かにここから近いですが、」
『部屋についたらノック2回、インターホン1回、ノック1回で鍵を開けることになっている』
「……羽場をどうするおつもりで?」

『死んだ人間をよみがえらせるんだ』




太陽を掴む事ができたら

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