ゆびさき同盟
ひとさしゆび

「お前らまーた手繋いでただろ」
「だって照島が出してくるから」
「それでホイホイ出し返すのもどーよ」

どーよ、って実際出さなかったとしても無理やり掻っ攫われていくし、それで照島の機嫌が悪くなったこともある。やめろってんなら向こうを止めてください母畑くん。自分のクラスの窓際から2列目。それも真ん中あたりの前後。元から仲のいい母畑と席が近くてラッキーなんて思ってたけど、こいつの座高が高すぎて黒板が見えやしない。それでも授業中はイライラする席も休み時間になれば話は変わる。自分の机にだらーっと伏せて名前を呼べば、くるりと後ろを向いて座ってくれた。

「ねー、母畑ぁー」
「なんスかチャラ子さん」
「なんでみんなチャラいっていうんだよ!ちがうし!」
「でも、お前また髪色変えたっぽいじゃん。それで余計にチャラく見える」
「よく気付いたねぇ。チャラくはないけど」
「オレよく見てるっしょ〜。いや、チャラいから」
「だけども残念、それ気付いたの二人目だから。次チャラいって言ったらぶっとばす」
「あ?どうせ照島だろ。やれるもんならやってみろや」

筋力なんかなくったって、身の回りには凶器になり得るものはいくらでもあるんだからね!前の休み時間に借りた沼尻の英語の教科書を笑顔で振りかざすけど、母畑は余裕で避けてくる。そんなさ、本気で殴ろうなんて思ってなかったけど、ここまで逃げられると当てたくなっちゃうよね。

「オレよか疲れてんじゃん」
「うっさい、こっちは運動部じゃないんだからっ」
「つーかバイト何してんの?」
「言ったらあんたら見に来そうだから言わない」
「へ〜見られたら困るような仕事してんの?」
「仕事はそういうんじゃないけど!」
「じゃあ、なに?スッピンとか??」
「……」
「ギャハハハ図星ィ?!」
「スッピンじゃないし!ちょ、スマホ触るな誰かに言う気か!」

母畑のスマホを取り上げようともがいても腕のリーチの長さはどうやっても勝てやしなくて、わたしの奮闘も虚しくわたしのそれもスカートのポケットでブブブと振動した。『今度、吉川のスッピン拝みにバイト見学いこーぜ』それに続くのは兎がお腹を抱えて笑ってるスタンプやカエルが石化してるスタンプだったり。各々楽しそうなコメント残してくれちゃってまあ。バレー部この野郎。後で会ったら足踏んづけてやる。そんで、もう女の子紹介しない!決めた!

「ていうか、グループで言うなってば」
「いーじゃんべつに。それともあれか、奴に知らせるなって?」
「そういうんじゃないけど、なんかやだ」
「えー?じゃあ逆?奴にだけ声かけろよって?」
「もう母畑きらい。しゃべんない」
「エー?そう寂しいこというなって」

『今度、遊び行くからバイト先教えろよ』ピロン、と軽い音と共に送られてきたメッセージにすぐさま返信する。『ずーっとバレーしてなよバレー馬鹿ども』あんたらにはお似合いだよこの野郎。

「ほらぁ、焚き付けちゃったじゃん。やだよ、バイト帰りとかに会うの」
「なに?照島から来たん?」
「ハ?」

身を乗り出してわたしのスマホを覗こうとする母畑から逃げるように上体を逸らせながらメッセージを遡る。あ、さっきのやりとりグループじゃなくて個人のだった。

「俺だけに教えろって?やるじゃん〜」

やるじゃん、じゃないんだってば。

「どうせ口だけでしょ」
「お前も素直じゃねーな」
「素直なのが良いことだとは思ってない」
「そういうところが捻くれてんだよ」
「だからアンタたちと友達やってられんじゃない?」
「一理ある!」




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