syrupy girlfriend

2018/02/14


よくもまあ、公認の恋人がいるというのに、こんなに山のようなチョコレートを受け取るものだ。

わたしは呆れかえって、ベッドの横に積まれた可愛らしいリボンのかけてある箱の山を見下ろした。ベッドにうつ伏せになって頬杖をつき、いたずらに使える魔法を探すことに夢中になっている恋人を傍目にして。

このどうしようもない――鈍感で、バカで、単細胞な――恋人をどうしようか、と考えていると、後ろから声がかかった。わたしの恋人と同室で、彼の親友でもあるリーマスだ。

「図書室であの本を見つけてからずっとあの調子なんだ」

「それよりわたしは、あのチョコレートの山が気になるけど」

するとリーマスは肩をすくめて、「シリウスはモテるからね」と仕方なさげに言った。わたしだってわかっているのだ。わたしの恋人、シリウスは何より顔がいい。ハンサムで、精悍な顔立ちをしている。そして顔だけでなく、性格も明るくて活発だ。たまにそれが行きすぎて、いたずらという形に至ってしまうこともあるけれど。

それにしても、バレンタインの日に恋人が自分の部屋を訪れているというのに、見向きもしないというのはどうなのだろうか。女の子に対する態度としては、到底許されることではないように思われる。わたしはむす、と頬を膨らませた。リーマスは困ったように笑って、わたしにハニーデュークスのお菓子を差し出してくれる。お礼を言い、半分に割って彼と食べるけれど、その甘い味で機嫌が直ることはなかった。

「やあやあ、ナマエ。今日は本に嫉妬かい?」

そうしているうちにいつの間にかジェームズが現れていた。わたしがちょっぴり嫉妬深いことは、とっくにジェームズにバレている。しかし途端に本を閉じて「おいジェームズ!これを見ろ!」と彼に呼びかけるシリウスのせいで、わたしの機嫌は急降下だ。リーマスが「どうしようもないジェームズバカだね」というので、余計いらいらが募る。

「……一番に彼にあげようと思ってたけど、やめたわ。リーマス、これあなたの分」

わたしがシリウスに聞こえないようにこっそり包みをリーマスに渡すと、リーマスは思いの外喜んでくれて、大切そうにそれを受け取った。中身は彼のチョコ好きを考慮して、チョコレートケーキだ。いつもお菓子を分けてくれるお返しに、少し多めに入っている。

「ナマエ、これ、いま食べてみてもいいかい。君の作るケーキが僕の好物なんだ」

わたしがもちろん、と頷くと、リーマスは杖を振って二つ分の紅茶の入ったカップを出した。わたしも一緒に、ということらしい。部屋に置かれたテーブルにケーキを広げ、並んで紅茶を飲んでいると、突然体に重みを感じた。

「ナマエ、僕の分は?まだもらってないよ」

その声はジェームズだ。後ろから抱きしめるこの手がシリウスのものだったらよかったのに、と思ってしまった考えを打ち消して、わたしはカバンにしまっていたジェームズの分のお菓子を取り出す。彼にはブラウニーを焼いたのだ。ジェームズは歓声を上げてそれを受け取ると、リーマスとは反対側の隣に座ってそれを広げた。リーマスが先ほどと同じく紅茶のカップを出したため、テーブルの上はさながらティー・パーティーのようだ。

リーマスとジェームズが先ほどまでのいらいらをほぐすように、面白い話ばかりをしてくれるのでわたしはすっかり機嫌を直し、くすくすと彼らの話に笑いをこぼしていた。

すると、突然わたしの腰に手を回されたと思ったら、そのまま持ち上げられて攫われるようにしてベッドに下される。誰何するまでもない。シリウスの仕業だ。

呆気にとられているわたしを見下ろすシリウスは明らかに機嫌が悪そうだ。「何よ、」と気丈に言ってみたけれど、わたしは彼の様子を伺っていた。助けを求めるようにリーマスとジェームズの方を見ると、二人はそそくさと片付けて「あとはお若い二人で」と部屋を出て行ってしまった。全く頼りにならない。

「ずいぶんと楽しそうだな、ナマエ」

シリウスはわたしに顔を近づけてそう言った。そしてくんくんとわたしの首筋を嗅ぐと、「ジェームズの匂いがする」と耳元に囁いてくる。

「シ、シリウスが悪いんじゃない。わたしが来ても何も言わないし、反応すらしないし…」

だんだんしりすぼみになるわたしの答えに、シリウスは「ふうん」とだけ返して、あとは黙ってしまった。気まずい沈黙に、思わず体を丸めていると、シリウスが突然わたしを押し倒して馬乗りになってくる。「へ、」と間抜けな声が口から漏れるのをわたしは自分のものではないような気に陥りながら聞いていた。

「俺には何もないのか」

シリウスがわたしを見下ろしながらそう言うので、わたしは慌ててわたしの横に落ちていたカバンの中を手探りで探し、一番大きな包みを取り出す。

するとシリウスはその堤のリボンを解いて、その中身を見た。わたしがシリウスに用意したのは、トリュフチョコとガトーショコラだ。いちばん時間をかけて、シリウスを想いながら作ったのに、ちょっと意地を張ったせいでいちばん最後に渡す羽目になるなんて。そう考えると、少し目が潤んでしまう。

シリウスはそれに気づいたのか、わたしに顔を近づけて目尻を舐め上げた。そして、わたしの上に跨ったまま、箱を差し出して「食わせて」と囁く。

わたしが少し震える手でトリュフチョコをつまみ、シリウスの口に差し出すと、シリウスはわたしの指ごと口に含んで、ちゅう、と音を立てて吸い上げた。わたしはどこか淫靡なその仕草に、思わず顔を赤くしてしまう。

そうして、シリウスはそのままわたしのくちびるに口付けた。彼のくちびるが甘くて、わたしはもっと、と促すようにシリウスのシャツの胸元を掴んで引き寄せる。

「ナマエ、」とシリウスが真剣に名前を呼ぶ声を聞くのと同時に、わたしの視界は全てシリウスでいっぱいになる。

そのあと、今年のバレンタイン・デーも、シリウスと甘い――甘すぎる時間を過ごしたのは、いうまでもない。

次の日、ジェームズとリーマスにシリウスと二人で散々からかわれたことも含めて、わたしたちのバレンタインなのだ。
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