午前3時の可愛い寝言
ふと目が覚めた。
時計を見るとちょうど三時を指している。まだ夜が明ける気配はない。
体を起こすと、それによって布団がめくれたせいで寒いのか隣に寝ているなまえが小さく身震いする。顔を覗き込んだが、起きてはいないようだった。
もう一度彼女の隣に潜り込み、向かい合ったまま彼女の小作りな顔を見つめる。
この、触れれば折れてしまいそうなほど華奢で小さななまえが、私の人生を変えたのだ。
私はなまえと出会わなければ、光の差さない闇へと深く深く沈んでいただろう。そして、その闇でこの世界を二度とは元に戻せぬほど破壊し尽くしていたはずだ。
私にはそれが可能だった。それだけの力があり、実際、ダンブルドアもそれを危惧していたのだと後から告げられた。
なまえの立てる寝息に耳をすませながら、私は思考の海へと沈み続ける。
考えを改め、一勢力になりかけていた”死喰い人”たちの力をみずから削ぎ、解散にまで追い込んだ後、私はダンブルドアを訪ねた。
ダンブルドアは全てを知りながらも、私に抜け目のない疑ぐるような目を向けたが、私の背中からひょこりとなまえが現れた途端、目をきらきらと光らせた。
「君は、得るべき者を得たのじゃな」
ダンブルドアを訪問したのはホグワーツでの教授の職を求めるためだったのだが、思わぬところで反対の声が上がった。
なまえである。
「ホグワーツの教授になったら、住み込みになるんでしょう。わたし、トムと離れて暮らすなんて不可能だわ」
そんなことを言いながら頬を膨らませるなまえに、じゃあどうしてついてきたんだと呆れながら問うと、
「やっとプロポーズしてくれると思ったのよ!出会った場所で、なんてロマンチックだと思ったのに、あなたの目当てはダンブルドアなんて。年上が好きだったのね」
すっかりふてくされたそんな答えが返ってくる始末。ダンブルドアは心底楽しそうだった。結局かわいい恋人のそんなわがままに逆らえず、私は将来的にまた機会があれば、という約束をダンブルドアから取り付けられ、その場を後にするしかなかった。
そして今は闇払いの職につき、毎日遅くなる日はあるにしろこのなまえと住む家に帰っている。
思えば、なまえと出会ってから私のペースで物事が運んだことがない。全てを把握しておかなければ気が済まなかった私が、楽観主義のなまえが言う「なりゆきに任せよう」にいつの間にか染まっていたのだ。
「んん……」
出会いにまで思考が進みそうだった頃、なまえが小さくくぐもった声を上げた。何か夢を見ているのか、唇をむにゃむにゃと子どものようにゆるめている。
その様子がどうにも愛しく頬を撫でてやると、それが気持ちいいのかすりよってきた。
「ん、…とむ…」
突然自分の名前を呼ぶなまえに驚きながらも、様子をうかがう限り起きてはいない。寝言だ。
夢の中でさえ私のことを考えている様子の可愛い恋人が起きたら、何の夢を見たのか聞いてやらねばならない。
ほだされにほだされて、ヴォルデモートになる未来を手放したリドルくん。なんだかんだ面倒見がいいせいでいつも振り回されてるイメージ。