君がいないと僕は、-Tom
同じセリフでいろんなキャラクターSS
「君がいないと僕は、不完全のままだ」
w/Tom Riddle 再会
トムとは、ホグワーツで別れたきりだ。
時折スリザリンにいた頃の学友にあって、無邪気に「トムとは最近どうなの?」と聞かれる時、わたしは決まって曖昧に微笑む。わたしにはそれしかできないからだ。彼が今何をしているのか、どこにいるのか、それさえわたしにはわからない。
今日は上司に言いつけられて、ノクターン横丁に来ている。こんなところ、仕事でなければ寄り付かないけれど。品定めするようにじっとりと見つめる住人たちの目から逃れるように、奥まった場所にある店へと急いだ。
すると、わたしの前を塞ぐようにして、立っているひとがいる。そこを通らなければ、店にはいけないというのに。最近はずいぶん、魔法界も物騒になっている。この前、金持ちの夫人が殺されたと聞いたばかりだ。わたしは思わずその場に立ちすくんだ。けれど、そんなわたしを追い詰めるかのように、そのひとはゆっくりとこちらへ近づいてきた。「あっ」そう声を上げた時には、すでにそのひとは目の前に立っている。
「ずいぶん怯えているな」
フードの中から聞こえた声に、わたしは思わず息を呑んだ。その声には、聞き覚えがあったからだ。
「……トム、なの……?」
その声に反応するように、フードがゆっくりと外される。そこにいたのは紛れもなく、トムだった。以前と違うのは、瞳の色がどこか血の色のように染まっていて、少しやつれたところだろうか。けれど、それによってむしろ、彼のうつくしさは凄みを増していた。
「久しぶりの再会だというのに、何も言うことはないのか?」
昔の調子で、トムが言う。わたしは張り詰めた緊張が解けたことで、うっかり腰を抜かしてしまいそうになった。そんなわたしを腰に手を回して支えると、トムはぐい、と彼へと引き寄せる。
「君を迎えに来た。まさかとは思うが、僕以外にうつつを抜かしてはいないだろうな」
「どうして、今さら――」
何も言わずに消えた彼に、わたしはこう言わざるを得なかった。すると彼は、うっそりと微笑んで、その壮絶なほどに整った顔を近づけながら、不敵にこう言うのだった。
「君がいないと僕は、不完全のままだ――それは、僕らしくないだろう?」