「例えばね、僕が全く普通の環境で生まれ育った、健全な精神と健康な肉体をもった何の変哲もない、ただの男だったとする。――ああ、これはあくまで仮定で、もしもの話だけど――もしも、もしも、そうだとするよ。そしたら僕はね、きっと生まれてすぐに、君に恋をするんだ。あ、馬鹿な事を言っていると思っているだろう。笑うなよ。僕は本気なんだから。僕は君に、生まれてすぐに、恋をする。まるで生まれる前から、そうなる事が決まってたみたいにね。勿論君と僕は同い年だから、君は赤ん坊で、僕が君に恋をしたとか、そんな事お構いなしに、ミルクが欲しいと泣いたり、おむつを替えてくれと叫んだりするんだ。僕はそれを見ながら、愛しくて愛しくてしょうがなくて、一歩間違えたら爆発しそうなくらいに君への愛を募らせて、君の背が一センチ伸びて、君の話す言葉が一つ増えるたびに、また新しく君に恋をする。そしてね、僕は毎日君に告白するよ。冗談なんかじゃない。本気だよ。馬鹿みたいにね。本気で、毎日君に好きだという。そうして君がいつか僕に恋をしてくれるようにおまじないをかけるんだ。そんなふうに、僕は数えるのも面倒なくらいに君に何回も恋をして、告白をして、愛を感じて、そうして何十年も、何万時間も、何百日も、君と同じ時間を過ごして、いつか、びっくりするくらい綺麗になった君が、僕に呆れたような、聞き飽きたような、少し照れたみたいな顔で笑って、「私も」って言ってくれるんだ。僕はそれに大声で叫んで、ガッツポーズをして、世界中の男どもに、見せびらかすみたいにして君を抱えあげてぐるぐる回るよ。そんな、特別みたいで、全然特別じゃない、どこにでもありふれたラブストーリーを、君と作るよ。世界中の映画館の、でっかいスクリーンに映したって全然恥ずかしくない、でも、家の小さなテレビの画面で、君に隠れてこっそりと見るのがお似合いな、そんな物語を君と作るんだ。―――好きだよ。僕は君が好きだ。何度だって言いたい。いつだって言いたい。いつまでだって言っていたい。僕は君が好きだ。大好きだ。愛してるんだ。君の、笑った時に、右目だけ少し細くなる笑顔が好きだ。君の子供みたいな泣き声が好きだ。夢に向かって走り続ける君が好きだ。転ぶ痛みを知っても、いいや、知ったからこそ、前より速く走ろうとする君が好きだ。好きなんだ。愛してるんだ。離れたくないんだ。一緒にいたいんだ。君と同じ場所で、同じ時間を過ごして、同じ空を見て、同じ星を見て、同じ風を感じて、そんなふうに生きていきたいんだ。これは愛だろう…?これを愛と言うんだろう?これが愛だろう?もし、この気持ちが愛じゃないというなら、僕は愛なんか知らなくてもいい。大好きなんだ。好きなんだ。手をつなごうよ。キスをしようよ。僕と恋を語ろうよ。僕がどんなに君を好きなのか、一晩かけてゆっくり聞いてよ。どうやったら、いったいどうやったらこの気持ちが全部君に伝わるんだろう。言葉じゃ追いつかなくて、身体じゃ遅すぎるんだ。ああ、君が僕の心の中に入ってこれたらいいのに!そしたら僕はこの気持ちを全部君にあげる事が出来るのに!…抱きしめてくれないか?僕の背中に腕をまわして。僕に愛を囁いてくれないか。うん、興奮してるんだ。どうしようもなくね、だから落ち着かせてくれよ。髪が、濡れているね。汗をかいたからかな?…悪い。でも、あと一度だけ言わせて。そしたらもう眠るから。…好きだよ。どうか、朝起きた時、隣に君がいますように。」

【case1:ある男の独白】

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