月と妃と人質と。23







ロイと同じ色彩をもつ貴婦人。
切れ長の瞳、すっと伸びた背筋、どこか凛とした高貴な美しさをもつ。

「私もロイの意見に賛成です。
嘆かわしいことに、露出や体形を強調したドレスや、目に痛い鮮やかする色合いのドレス、見苦しいほどに派手なドレス、アクセサリー髪型が流行していますが


私は嫌いです。」


「おっ、伯母上・・・・。」

ロイのつぶやきにシュラは、あぁやっぱりな・・・・と思わずにいられない。

「あの様な下品な服装でよくも堂々と歩けるものです。
見た目から低俗。頭の悪さを主張しているとしか思えません。」


まさに一刀両断。
歯に衣着せぬ言い方である。

すると貴婦人は一度口を閉じ、シュラを上から下まで目を走らせる。
さすがのシュラもその様子に、貴婦人のもつ厳格な雰囲気におされ、ロイと固まったまま動けない。

先ほどまでとは別の意味でドキドキと心臓がうるさい。



「それに比べて、素敵なお召し物。」
にっこりと満足そうに頷く姿にロイとシュラは同じタイミングでほっと息をついた。

「品があり、控えめながらも素材は上質で、尚且つ着る者の美しさを最大限にいかしている。」
「ありがとうございます・・・・。」

なぜか、ロイが礼を言う。

「ロイやグレンはいつも馬鹿みたいな女性を好みますけど。あら、失礼。品のない服装の女性に目がいくようでしたが、今回は貴方を見直しましたよ。やはり、遊びと本気は違うのかしら?」

じっとロイを見る目に隣のシュラまでもが冷や汗を流す。

男である自分にはわかる。
それが男の性なのだと・・・・。
分かってはいても、目が追ってしまうのだと・・・・。


「伯母上、小言はそこまでにしていただけると・・・・。」
シュラもいますし、と控えめに主張するロイがだんだん可哀想に思えてくる。

「そうね、そこでこそこそ様子をうかがっている者もいるようですし。

グレン?」

すっと貴婦人の持つ扇が一点をとらえた。
大きな柱の影から、情けない顔をしたグレンが姿を現した。

「いや、別に隠れていた訳ではないんですよ?ほんと。」
「お前の言葉を簡単に信用していては、母親は務まりませんよ。
何かと仕事が忙しいとお前たちは私に顔も見せませんが、それにしては血色のいい顔が並んでますね。」

その言葉に・・・うっと喉をつまらせたグレンは、いつもとは違う蚊のなくような声で全く仰るとおりで・・・と答えた後、項垂れた。


「さて、話は一度ここまでにしましょう。
立ち話はシュラ様に失礼ね。

申し遅れました、わたくし

グレンの母でロイにとっては伯母になります。

ミリア・シュヴァリエと申しますわ。」

優雅な微笑みと身のこなしでミリアは一礼する。

「こちらこそ、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。

シュラリーズ・ルヴレイと申します。」
シュラも慌てて、美しく最上級に敬意をこめて礼をする。

その姿にミリアは更に笑みを深める。
「シュラ様のおかげで今日はとても良い気分ですわ。
最近はそのような優雅な身のこなしをする者も減りました。そんなシュラ様を選んだロイを褒めてやりたいと思うぐらいです。」

お父様の教育が素晴らしかったのでしょうね。
と微笑むミリアをシュラは一気に好きになった。

さすがロナルド様のお子様とでもなく、シュラと父をさり気なく褒めるその言葉選びに知性を感じる。

お父様と温かみのある言葉に父を思い出して胸が熱くなった。

「今日はシェフにお願いしてアルファンの料理も準備してもらっています。
私も久しぶりにアルファンの雰囲気を感じられるが楽しみです。」

どこまでもシュラを気遣うミリアの人柄にシュラは、ますます笑顔になった。




結論からいうと、四人での夕食はとても楽しかった。

久しぶりのアルファンの料理は懐かしく、ロイもグレンもミリアもおいしいと言って食べてくれた。
故郷を褒められてとても誇らしい気持ちになったし、ロイが時々アルファンの料理も用意させようと言ってくれシュラはとても嬉しかったのだ。

なによりとても話題が豊富で頭の回転も速いミリアとの会話が楽しかった。
ロイとグレンは度々、ミリアに小言を言われていたが、それでもミリアを尊敬している様子が伝わった。

ミリアの言葉にはびくびくしていたが、それ以外はひどくリラックスしたロイがミリアの体調を気遣ったり、グレンと嬉しそうに昔話に花を咲かせる様子をみてひどく安心したのも大きい。

「貴方はシュラ様をしっかり見送ってから、自室に帰るように。」
夕食後、これまたはっきりと口にしたミリアの言葉にロイはもちろんと頷き、シュラをエスコートしてくれた。

身をまかせて歩いていると後ろから
「貴方は私を送るのですよ。」「もちろんでございます、お母様。身に余る光栄でございます。」「よろしい。お前もようやく学習したようですね。」というミリアとグレンの声が聞こえて、ロイと一緒に肩を震わせながら自室まで声を殺しながら歩いた。

シュラの自室の扉を開いた瞬間、ロイと一緒に噴き出してしまい警備の兵たちもつられて声をだして笑っていた。

王と臣下が笑い合う。
その光景が幸せでロイの懐の深さを感じもした。

寝る前にも、思い出されるのはロイばかりでシュラは自分の変化に戸惑ってしまうが何だかそんな事も気にならないぐらい楽しい一日だったような気がする。
「あの人が幸せそうだと、ひどく安心するし私も嬉しいな。」
シュラの言葉に寝室の明かりを消していたベルは、驚いてベッドに入った主人を見た。


しかし、そこにはすでに眠りの世界に誘われた美しい主人の姿。

ベルは少しだけ考えて、軽く頷いて嬉しそうに笑う。
眠る主人に「そんなシュラ様を見るのは私も嬉しいです。」と控えめに声をかけて寝室からそっとでていった。

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