月と妃と人質と。19







お父様・・・・?
お母様・・・・?





それとも・・・・





父上?
母上?




これもダメなの・・・・?
どうして?
なら、何て呼べばいいの・・・・?
どうすればいいの・・・・?


なぜ、呼んではダメなの?


どうしたら、許してくれるの?



どうして?なぜ?










なぜ、呼んではダメなの?


僕のお父さんとお母さんなのに・・・・。













「ダンス?」
シュラは、手紙を書く手をとめ隣に立つロイを見上げた。
呆れたという言葉が思わず続いてでそうなほど、シュラの目は据わっていた。
部屋の主であり、己の主であるシュラのその態度に、ベルは思わず顔が引きつるのを感じる。
なにしろ、相手はロイだ。
大陸一の大国、賢王と名高いルーベンスの偉大な御方である。
その神のような御方にこの態度・・・・。
いくらアルファン王家で紫の瞳をもつシュラといえど、罰せられてもおかしくない。
アルファンは敗戦国、ルーベンスの支配下にあるのだから・・・。

だが、ロイはそんな事には気づいていないような明るい口ぶりでシュラに話しかけた。
「そうだ、結婚式の後に催される舞踏会で王と正妃が躍るのが昔からのしきたりなのだ。
目的は、来賓の前で仲睦ましい姿を御披露目すること・・・・だ。」
ロイはぐぐっと顔を近づけて、シュラに向かって笑う。
その笑みが今までとは違う気がして、いつの間にやら近づきつつある二人の距離をシュラは嫌でも自覚せざるえない。
「私は聞いていませんよ、そんな話・・・。」
「ダンスは貴族の嗜み、簡単だろ?」
そうですが・・・と言いかけて、シュラは何か引っかかりを感じた。
「・・・・王と正妃が躍るといいましたか?」
「そうだ。」
「ん?・・・ということは?」
シュラのハッとした顔に、ロイはますます満足そうに笑う。
「決まったことだ、異論は許さん。その手紙にも『ロマンスを踊ることになりました。』と書いておけよ。」
どうせ、ロナルドに送る手紙だろう?と、ロイは笑いながらシュラの部屋から出て行った。
最終的には、自分の笑いが楽しくて仕方がないというような高笑いになっていたのをロイは気付いただろうか?

それにしても・・・・。
「ロマンス?」
聞きなれない単語に、思わず首を傾げ・・・
ロイが消えていった扉を見つめ・・・・
シュラの目は自分の問いに答えてくれそうな人を捉えたのだった。

蛇に睨まれたカエルのように、硬直するベルに向かって、それはそれは美しい笑みを浮かべたシュラがベルの顔を覗き込む
「ベル、ロマンスって何のこと?」
「・・・・王様と正妃様の為に作られた曲の総称でございます・・・。」
ベルは項垂れながら、小さな声で答えた。
声が震えなかったのは、奇跡といってもいい。
「そう・・・。ねぇ、だったら、そのロマンスを踊るということは、

つまり・・・・

私は何をしなければいけないことになるのかな?」

ベルが言い難そうに唇を歪め・・・・
数秒後にようやく口を開けたその時、

「女性の姿で、誰よりも美しく着飾って、女性パートを踊るってことだな!」
「明日にでも、ダンスの先生を手配いたしましょうね?」
あはは!とこれまた楽しそうに笑うグレンと突然、お邪魔してすみません、とのほほんと笑うレンがシュラの部屋のに入ってきていた。




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