月と妃と人質と。18






「いて・・・。」
ロイは頬をおさえた。
「っ!ごめんなさい!」
シュラはロイに駆け寄って背伸びをした。
ほっそりとした白い手が頬に触れる。
「ごめんなさい、赤くなってる?見せて。」
少しだけ屈めば、大きな紫の瞳が揺れているのが見えた。

美しかった。
その神秘的な輝きがシュラに似合っている。

「大丈夫だ。」
触れているシュラの手に頬をすりよせる、思わず逃げようとしたシュラの腰に腕をまわす。
「大丈夫だ。シュラリーズ。」
見開かれた瞳にロイは満足した。
彼の瞳の中にはロイだけが映っている。
そのままの態勢でシュラの腰を引き寄せた。
美しい桜色の唇を・・・・・




「やめた。」
降参とばかりにロイが手をあげる。
「・・・・・・。」
振り上げそうになった手を慌てて引っ込めるシュラが可愛い。
気まずそうに視線をそらすシュラにロイは声をあげて笑った。
懲りずに手をだそうとしたのはロイだが、
またもや懲りずに手をあげようとしたのはシュラも同じだった。
息をのむほど美しいが、やはり男らしい。
思わず手がでてしまう自分が情けないのだろう、シュラはすっかり肩をおとしている。
ますます面白くなってロイは腹を抱えて笑う。
(なんてヤツだっ!)

「こいっ!」
ひどく楽しそうに笑うロイは、シュラの腕をつかみ駆けだした。
「ちょ・・ちょっと!」
「早く走れ!」
勢いよく部屋から飛び出すと、大きな窓から日の光が入る長い廊下にでる。
ロイの金髪が光をあびてキラキラと輝く。
天井のシャンデリアが反射して眩しくて、走りながら顔をそむけると窓から見えたのは鮮やかな緑。
「わぁ・・・。」
美しい城の庭園には赤や黄色など色とりどりの花が咲いている。
少し奥では、兵士たちが談笑しているのが見えた。
走るロイとシュラにすれ違う女中たちは声をあげたり、目を見開いたり反応は様々だ。
だが、最後には二人を暖かな笑顔で見送ってくれる。
引きずられながら後ろを向くと手をふるものまでいる。
(暖かい。これが・・・・)
思わず、笑顔になってしまう。
「その顔の方が何倍もいい。」
にやりと意地が悪い笑みを浮かべたロイを見たシュラは今度こそ声をあげて笑った。


確かに自然に愛された・・・・特別な国。


つきあたりの螺旋階段を駆け上がる。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
鮮やかな色彩をもつ目の前の男がひどく眩しい。
彼の周りの空気が輝いている気がする。



バンっ!!!!
階段をのぼりきったその先にあった大きな扉をロイが開ける。

目の前に広がった景色にシュラは感嘆する。
「・・・・綺麗・・・。」
「お前はあまり外出した事がないと聞いたから、この景色を見せてやりたかったんだ。」
目に飛び込んできたのは、美しいルーベンスの景色だった。
屋上のようなものなのだろうか。周りにはなにもない。
ただ、金色の上品な手すりがあるだけだ。
360度どこからでもルーベンスの国を一望できる。
森や湖、活気ある城下町、人々の生き生きとした声までもが聞こえる。
「・・・・あれ?」
よく見ると一部だけ手すりの色が変色している事にシュラは気づいた。
美しい城下町が見渡せる方向の手すりだけ。


「これが俺達の国だ。」
ロイは一部だけ変色している、その部分に躊躇いもなく手をおいた。
(俺達・・・・。)
微妙な言葉のニュアンスにシュラは気づいた。
「この国を守るために皆が命をかけて戦う。
そして俺は・・・。」



「そんな国民を守るために存在する。
俺はこの国の象徴であり、国民の防壁だ。」
城下町を見つめるロイの目があまりに真っすぐでシュラは鳥肌がたった。

一部だけ変色した手すり。
おそらく、何度も何度もそこに手をおいて一人でこの景色を眺めていたのだろう。
何年にも渡って、一人でずっと・・・・。



『シュラ・・・・王とはどういうものか分かるかい?』
『国を治めるために存在する?』
『う〜ん、どうして国を治めることが必要なのかな?』
『豊かな国にしなくては、民が困るからです。』
『豊かな国にするのは王の役目ではないよ。すべての国民の役目だ。
家族、そして国のために汗を流す・・・・それが積り積もって国の繁栄に繋がる。』

『う〜ん・・・。』

顔をしかめた自分に父はあの時、なんと言っただろうか?

『王はただの象徴にすぎないよ。』










だからこそ、真の王者とはどういう意味なのか知りたいとは思わないか?


(お父様・・・・。彼は・・・。)




「俺は家族から、まともな愛情をむけられた事がない。
だから素直に笑うことが出来ない子ども時代など、誰にも味わわせたくない。」
「この国に足を踏み入れ暮らしていくのならば、お前もルーベンスの国民・・・・俺が守るべき対象だ。


例え、お前に限らなくてもな。」
切ないほど真っすぐな人だとシュラは思った。

「本当の笑顔でいてくれ。その為なら、いつだって連れ出しやる。
遠乗りに行こう、町におりるのもいいな・・・。
何も気にせずにここで生きてみろ。守ってやるから。」


お前は、この国の民だと
ここにいてよいと言われている気がした。


ルーベンスは特別な国
自然に愛された国


「俺のようにはさせないから。」


彼が大切に守ってきた国・・・・。
たった一人で戦ってきた王宮。
彼はここで抱えきれない思いを隠して生きてきたのだろうか?


「ロイ陛下。」
シュラはロイの隣に立ち、彼が置いている手の横にそっと手すりに手を置いた。
「これから何度でも一緒にこの景色をみましょう。」


(貴方が幸せだと心から思えるその日まで。)
そう一瞬でも思ってしまった自分にシュラはひどく戸惑った。






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