月と妃と人質と。14






「この制度では貧富の差が広がるだけだと思いますが?」
「しかし、貴族だからといって税を重くすると下級の貴族が困るだろう。」

日の射しこむ中で交わされる議論。

「それならば、仕事を与えればいいでしょう。下級貴族の中にも優秀な者はいるのですから、その者たちに機会与え満足な収入を約束するというのは?」
「・・・・たとえば?」

ロイが興味深そうにシュラを見る。
側にたっていたグレンとレンもシュラの話に耳を傾けている。

「適材適所ともいいますし、武術に秀でているものは騎士に・・・学が優れているものは文官や研究に勤しめばよろしい。」
眉をしかめたグレンが手を挙げた。
「・・・それだと貴族も働くことになるぞ?」
「働かざるもの食うべからず、ですよ。」

なんだ、それは?という顔を向けたれたシュラは慌てて説明をする。
(日本のことわざだったか・・・・。うっかり出てしまったな。)

「それに、グレン殿も貴族でいらっしゃるのに働いているではありませんか。」
「俺の場合は、一応貴族というだけだ。代々、騎士として王に仕えることが決まりだからな。」
「ならば、それを他の貴族にも求めればいい。素晴らしい人材が見つかるかもしれませんよ?それに貴族といえど、働いてみたいと思っているものもいるはず。」

ロイは目をつむり、何かを考えている。
レンは感心したようにメモをとっていた。

「そうなると、隊の制度を変えねば・・・。近衛隊に所属するのは貴族だけだが、数が増えるとなると近衛隊に置く訳にもいくまい。」
「ならば、このようにすればいいのでは?」

サラサラと紙に書きしるす。
書かれた内容もさることながら、その美しい文字に三人は驚いた。
大変読みやすく、もはや芸術のようにすら思える。

「随分と美しい文字だな。」
グレンが感心したように頷いた。
元来、素直な性格なのだろう。グレンは注意していなければ、思ったことが口にでるタイプだ。
「これもロナルドが教えてくれたのか?」
ロイの問いにシュラは首を振った。
「いいえ、これは自分で気をつけようと思ったのです。何でも美しく優雅にこなせるほうが色々とお得でしょう?」
文字が綺麗であれば様々な場面で役に立ちますよ?と言われ、それもそうだとロイが頷いた。
確かに公式の文書であれば、何度も苦労することなく読み返せるだろう。
他国への手紙の際にも役に立ちそうだ。
「そうそう、文字で思い出しました。国民にも読み書きは教えるべきですよ。」
にこりと優雅な微笑みを向けられ、三人は驚きに固まった。






「シュラ様はすごいですね〜。」
レンはシュラの文字が書かれたメモを見ながら、感嘆の声をあげた。
レンは興奮と尊敬の眼差しをシュラに向けながら、メモを貰おうと必死に頼み込んでいたのだ。
本当にちゃっかりしている。

シュラの私室から退出し、執務室に戻ったロイは椅子に座ったままグレンを見る。
「俺はシュラ様の案に挑戦してみたいと思うぜ?」
軍の制度に関しては、ロイとグレンの許可がおりれば変えることができる。
「貴族の中には強いやつもいる。それを活かしてみたい。」
ロイはそれでも暫らく、渋い顔をしていたが諦めたように頷いた。「いいだろう。このままでは何も変わらん。挑戦してみるか。」
シュラの提案は、次の日から実施されはじめる。
それは大きな成果があげられ、それからというもののロイはシュラにやたらと意見を求めるようになった。



「何も力がない訳ではないということか・・・。」
夕暮れの中、執務室で書類にサインをしていたロイが呟いた。
確かにシュラは特別な力は何もない。

雨を降らすことも
精霊を従えることも
神の恵みを人々に与えることも


何もできない。

それでも、国を繁栄させる力を持っている。
知恵という部分での大きな力だ。
どんなに勉強しても思いつかなかったものを意図も簡単に思いつく。
不都合なことがおこれば、その対処法すらも知っている。

それは日本では当たり前すぎる事なのだが、この世界の人々には新鮮で予想もつかないものだったのだ。
シュラはそれに気付かず、こちらの世界に応じて提案していただけにすぎない。
それでも、この国に影響を与えている。

紫の瞳は至高の輝き。
どんな宝石も敵わない。

紫の瞳は平和の証。
調和への可能性を秘めている。

紫の瞳は真の王者のもの。
手にすること、すなわち世界の覇者となる。

紫の瞳は至高の輝き。
月の導き。


「なるほど・・・、やはり正妃というのも悪くない。」



ぐるる・・・
ロイの足元で何かが動いた。
「デオン、少し協力してくれ。」
腕をのばして、白い毛を撫でる。
「お前も興味があるだろう?いってこい。」
言い聞かせるように言えば、白い毛をもつ固まりが動いた。
のしのし、と足音をたてて執務室から出ていく。その途中、一瞬だけ振り返ってがおっと鳴いた。
それにシッシッと手を払い、ロイは早く行けと命じた。









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