月と妃と人質と。11







飽きもせず、デオンを眺めていると眉をしかめたグレンがやってきた。
グレンはシュラではなくデオンにのった男に話しかけた。
「何してんだ、いつからいた?」
「最初から。」
咎めるような口調のグレンに男は悪びれもせずに言う。
「まぁ・・・確かめることもできたし先に帰ることにするか。」
男はシュラを見ると、意味ありげに微笑んだ。
その微笑みは男のシュラからみても色気を感じさせるほど魅力的な笑みだったのだが、探るような男の目にシュラは少しだけ眉をしかめた。
そんなシュラに男は苦笑し、1冊の本を差し出してきた。
「お前には知る必要がある。」
シュラは本を受け取り、その場でタイトルを確かめようとしたが、それは叶わなかった。


男が片手をのばし、シュラの顎をとったからだ。
するっとその手が上にあがっていき、目の周りを撫でる。


愛でるように……

大事そうに……


優しく撫でられる。

深い海のような青の瞳が輝いたような気がした。

太陽を反射する男の美しい青い瞳には自分がうつっている。それでも何も言わないシュラに男は「賢い選択だ。」と満足そうに笑う。

愛しさの中にも何かを探るような感触にゾクリとし、思わず大きく目を見開いた。その至高の輝きが太陽の光でさらに輝くとは知りもせず…。

風になびいていたシュラのポニーテールに気づくと、男は美しいプラチナブロンドの髪を優しく掴みキスを落とした。
シュラにあえて見せるためにゆっくりとした動作で……。


そのまま目線を合わせらられ…
時が止まった気がした。

しかし、こちらの反応を観察するような青い瞳に負けたくなくてシュラはゆっくりと微笑んだ。

父直伝の美しい笑みを。







「俺の負けだな。」

張り詰めていた緊張感が男の一言で一気に緩んだ。


そこにきて、二人を眺めていたグレンが呆れた様なため息をおとした。
「はやく帰れよ。俺まであのキンキン声で怒鳴られたらどうしてくれる?」

キンキン声に心当たりがあるのか、男は眉をしかめて軽く頷いた。
そして、そこではじめて手綱をとったのだ。

白馬は男の手綱に従い、歩を速めた。
一度、シュラに目を向ける。
ただそれも一瞬ですぐに離れていってしまった。

小さくなる男と白馬を馬車の窓から身を乗り出して見送る。


「あれが、ロイ陛下。」

あれが、ルーベンスの若き王。
その名を世界に轟かせ、
あの父が一目おいている存在。

あれがロイ陛下。

シュラの呟きにグレンが信じられないように振り返った。
「分かりますよ。」
あんな存在感のある人間がただの兵士な訳がない。


そして、シュラは手の中にある本を見つめた。

ずしりっと重い。
美しい装飾が施されたその本は、一度も読んだことがない。

この手の本は、幼い頃にまだ時期ではないと父にとめられていた。
月日がたち、そういえば…と思い出した時には、それらの本は書庫から姿を消した。
もしかしたら、父が処分させたのかもしれない。

もし、そうだとしたら…

そこまでしなくては、いけない何かは何なのだろう?

学者たちが必死に読み解く神話の歴史・・・。
この中には何が?

シュラには表紙を開きサッと目を通すと、目を見開いた。


(なるほど、これか…)
父がひた隠しにしてきた訳は…。



そして、グレンに向かって優雅に微笑んだ。
「ルーベンスに着くまで読書をしています。」
美しいが有無を言わさない微笑みにグレンは頷くことしか出来なかった。



「・・・してやられた訳ですか。」
シュラは悔しそうに唇をかんだ。
ロイが差し出してきた本には、紫の瞳のことが書かれていた。

父や父の友人たちは、いつもシュラの瞳を見ていた。
何かあるのだろうとは思っていたが、まさかこんな事だったとは・・・。
「お父様が認めた方・・・・。」
そっと先ほど受け取った本を恨めしそうに睨む。

ならば、彼が真の王者?
『君は特別だからね。』
ロナルドは、特別だからこそシュラをロイに差し出したのだ。

紫の瞳をもっていることがなんだというのだ。
特別な能力なんて何もない。
超能力や魔法が使えるわけじゃない。
剣術も弱く、鍛えても筋肉のつかないこんな体で何ができるというのだ。
父のように国を動かせる力もない。
ロイのように他国を変えてしまう力もない。

ただの15歳の少年。
それが自分だ。

シュラは悠然と微笑むロイを思い浮かべた。
(あの人は・・・・何を考えている?)



『お前は知る必要がある。』
そう言い切った男の真意が知りたかった。





あとがき。
先が長いよ〜。





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