月と妃と人質と。9






「人質・・・か。」
シュラリーズは寂しそうに呟いた。
「シュラ・・・。」
父の優しい緑の瞳が好きだ。
でも、父の優しい瞳があの人を見る時だけ輝きを変えることを知ってしまった。
「お前の幸せはルーベンスにあるんだ・・・。」
「お父様がそう思うのならそうなのかもしれないね。」
父の死への決意を覆したのは<ルーベンス>の若き王。
彼に少しだけ興味があるのも事実だ。
でも自分はここでも十分に幸せになれると思う。
思ってしまう。
「・・・私とまた会うその時まで、生きると誓ってください。」
最後の別れじゃないのなら、違う国に行くくらいどうってことない。
一度は死んだ命だ。
異世界に行くより他国に行くなんてどうってことない事じゃないか。
父の命に比べれば、この運命が最善だったのだ。

「絶対に死なないと誓ってください。生きてあの人と幸せになると誓って。」

大好きだから。
この15年間、父から受けた愛情は決して嘘じゃない。
この15年間、あの人より優先してくれていた。
この15年間、シュラリーズだけの父親だった。

「・・・誓うよ。ごめんね、シュラ・・・シュラリーズ。」
わがままでごめん。
ロナルドの唇が震えるようにその言葉を紡ぎだす。
それにシュラは首をふって笑ってみせた。
ロナルドは顔をしかめた。
そっと腕の中に抱きしめられる。
「愛しているよ。」
二番目に・・・・でしょ?
そう思ったのは内緒だ。

最初は落ち着かない部屋だったのに、今はこのやたら豪華な部屋が落ち着く。
父の腕の中も
父の体温も

今はとても落ち着く。
それが時の流れなのだろうか。

寂しい。
でも心のどこかで期待している。
何かを。

「本当は、ずっとここじゃないって思ってたんだ。どうしてか分らないけど。」

抱きしめられたまま、呟けば耳元でそうだろうとも、君は特別だからね。と囁かれた。


コンコン・・・
控え目に叩かれたノックの音に、どちらともなく体を離す。
「はい。」
「失礼します。お迎えの馬車が・・・。」
涙ぐみながら必死に伝えるルヴレイ家の執事にシュラは微笑んだ。




「すぐに帰ってきますよ。」
腰までのびたプラチナブロンドをポニーテールにしたシュラが茶目っ気たっぷりに父と使用人にむかって笑った。
「すぐには無理だろう。」
「大丈夫!お父様がロイ陛下を脅せばいいのだから!」
お父様なら簡単でしょう?と笑う姿がロナルドには愛おしかった。
シュラの言葉に笑い、優しくその頭を撫でた。
気付かれないようにシュラはぎゅっとズボンの端を握りしめた
良家の息子らしく上質の布をつかったズボンに少しだけ皺がよる。
「責任をもって、このグレン・シュヴァリエが預かります。」
グレンがロナルドに深くお辞儀をする。
「君をおくってくるなんてロイ陛下はお優しいね。」
アルファンを吸収した今5大陸の中で一番の大国であり強国である<ルーベンス>の王、ロイの一番の部下であるグレンに人質の送迎をさせるとは最上級の扱いである。
「はじめまして、グレン殿。シュラリーズ・ルヴレイです。」
グレンはロナルドの横にたつ、少年に目を向けた。
父であるロナルドと同じプラチナブロンドが眩しいとか
その顔立ちが究極なまでに整っていて思わず息をのむ美しさだとか
スラリと伸びた手足のしなやかだとか
そんなのはどうでも良かった。


シュラの紫の瞳にとらわれた。



(やられた・・・・。)


人質なんかじゃない。
ロナルドは最初から、これを狙っていたのだ。
ロイに初めて会った時、その子どもの可能性を見越していたのだ。
観察して
試して
茶番に付き合わせて。
全てはロイがこの至上の輝きを手に入れるために。
「・・・・はじめまして。大切な方。」
グレンはシュラの前に跪いた。
シュラが首を傾げるその横でロナルドは満足そうに笑っていた。






あとがき。
まだまだ続きます。





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