月と妃と人質と。8






「よろしかったのですか?あんなことをして・・・。」
レンは心配そうにロイに詰め寄った。
アルファンとの戦いに勝ち、帰国したロイに事の顛末を聞かされたレン。
何人かの大臣をアルファンに送るものの、今までの体制と変わらないアルファンが反逆するのではないかと心配しているのだ。
「問題ない。ロナルドがいる。」
聡い彼ならば、兄と自分のことを考え反逆をおこそうという気もおこさないだろう。
(彼の望みは叶えられたのだから…。)





「えーと・・・なぁ、ロナルド様とマクシミリアン様はもしかして・・・。」
言いにくそうにグレンが口を開いた。
頭をポリポリと掻きながら、近寄ってくる親友のその姿からロイは言葉の真意をくみ取り、軽く頷いた。
「何がどうなってこじれたかは、しらんがそういう事だろう。二人一緒にしておけば、不満もでずにルーベンスの為に働いてくれる。」
お互いを見つめるそのまっすぐな瞳を見ていて気付いた。
しかし、ロナルドの揺れる瞳には罪悪感が浮かんでいた。
どうしても止められなかったのだろう。


実の兄を愛する気持ちを。
それは許されない気持ちだと知りながらももがき続けてきたのかもしれない。
そして、彼は愛する兄と迎える最期を望んだのだろう。
どうしても最期だけは一緒にいたいという思いをとめることが出来なかったのかもしれない・・・・。

「つまりは・・・この戦争は・・・・国を巻き込んだ痴話喧嘩?」
グレンの言葉にレンは悲鳴をあげた。
「そんな簡単なことじゃない。兄の命さえ奪うことになるだろう戦争をなぜわざわざ負けさせようと仕組んだか・・・・。」
「まま・・・まさか心中したいがためにとかじゃないですよね?」
レンが真っ青な顔で苦笑する。
そんな事で国を巻き込まれてはたまったものではない。
「馬鹿か。それなら、とっくにしているだろう。いつでもチャンスはあったはずだ。

そもそも第2王子であるロナルドがなぜ王位を継ぐべきとされたのかも、王位を継ぐべきだとされたロナルドが王位を継がなかった訳も分らない。重税を課せられている国民のために動いたのならば、なぜ今なんだ?もっと早くても良かっただろうに・・・。それに兄のために王位を譲ったのだとしたら、わざわざ戦争に負けさせるなど・・・。」
ロイは頭を抱えた。
謎が多すぎて整理できない。
ロナルドに疑問を投げつけたところで、あっさり交わされるのがオチである。
あの人は、そういう人だ。
彼のあんなにも人間味に溢れた姿を見たのはマクシミリアンの隣に寄り添っていたあの時だけだ。


ロイ、レン、グレンはうーん・・・と三者三様の格好で考え始めた。
ロイはむっすりとした顔で執務室の自分の机に肘をつき遠くを見ているし、グレンはカギのしまった扉に背中を預けて腕を組みながらうなっている。
レンは山のように積み上げられたアルファンの資料を何枚かつまみながら、目を走らせ首を傾げていた。
光が射し込むロイの執務室の中、グレンの唸り声とレンの資料をめくる音だけが聞こえる。



暫らくして声をあげたのは、レンだった。
「子ども・・・。子どもですよ!!」
レンの叫びにロイとグレンは耳を抑えながら、レンをみた。
いくらなんでも大声をだしすぎである。
「確かロナルド様には子どもがいたはずですよ。王であったマクシミリアン様にはお子がいらっしゃらないので、王家の血をひくのは、その子ども一人です!ロナルド様が結婚されたのは、マクシミリアン様が王位を継ぐ1年前。それと同時に政治から離れていたはずのロナルド様に王位をという声が上がり始めたようです。」
レンはその積み上げられた書類の中を漁るように手と目を動かしながら、告げる。
「やけにタイミングがいいな・・・。それで?」
「今から15年ほど前にロナルド様の子どもがうまれます。その直後、ロナルド様の奥方が死亡・・・。これにマクシミリアン様が関わったのではないかと噂がたったようです。ロナルド様の性質から国を動かせる力を持ちながらも、この時ロナルド様は噂にすら耳を傾けなかった。そして15年後、私たちの動きとともに重い腰をあげたのでしょう。」
「だから、なんで今なんだよ!!」
グレンが頭を掻き毟りながらレンに怒鳴った。
謎ばかりのアルファン王家に容量オーバーだったのか、苛立ちを抑えられない。
「だから、子どもですよ!!この子が成長するまで待ってたんですよ!!」
「はぁ!?なんで成長するまで待つ必要があるんだよ!」
「馬鹿ですか!あなたは!!」


愛する兄のために譲った王位・・・・
結婚・・・・
子ども・・・・
妻・・・・・・

「子どもが成長するまで待っていたのか。自分たちが死んだりすれば、子どもが残されるから・・・。王家の血をひくのは、その子ども一人。自分が死ねば殺されるかもしれない存在だ。」

そうです!とグレンと言い合いしていたレンが振り返る。
「ちょっと待てよ!じゃあ、ロナルド様はその子どもを人質としてお前を差し出してきたってことは・・・。」





「俺が、子どもの引き取り人として選ばれたってことだ。」

あの時
あの場所で
ロナルドと初めて会ったあの瞬間から
運命は決まっていたのかもしれない。



ロイはロナルドのあまりの頭の良さに尊敬の念を抱かずにはいられなかった。




あとがき。
2013 ,05,27一部修正





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