月と妃と人質と。6





扉を開いた先にいたのは・・・

予想していた通り、玉座に座るマクシミリアン王。
この不気味な城を人に変化させたような、病的なまでに白い肌と黒い髪。
目の下の隈は異常なまでに目立っていて、とても一国の王としてのオーラを感じることはできない。
・・・・いや、違う。
恐ろしさ、不気味さでもって国を支配するのであれば十分に一国の王としてやっていけるだろう。

「久しぶりだね。」
甘い優しい声色は、マクシミリアン王のものではなく



「ロナルド殿・・・・。」
ロイは、ロナルド様と言わなかった自分を褒めてやりたいと思った。
ロイにとってロナルドは敵となっても、今となっては自分の方が身分が上でも、思わず敬わずにはいられない存在だったのだ。
玉座に手をかけ、にっこりと笑うロナルドの姿は壮絶までに美しかった。
そしてこの暗い、不気味な城の中ではロナルドの周りだけ光が射し込んでいるような錯覚すら覚える。それぐらい神々しい男なのだ。ロナルドという男は・・・・。
ロナルドのプラチナプロンドが明るく輝き、優しい緑の瞳がゆれる。
同じ兄弟とは思えないほど、色彩、雰囲気が真逆の二人。

なぜ、この人が王位につかなかった?

そう思わずにはいられないほどの存在感をロナルドは持っていた。
国家の第一線から外れても
時がたち、王子という位がなくなっても
彼は何一つ変わっていなかった。

「ロイ陛下、君は私たちを殺さなくてはいけない。」
微笑みながら告げられる内容にロイは顔をしかめた。
「・・・そんなつもりはありませんよ。王位からはおりていただきますが・・・・。」
「それは許されないことだ。」
ここにきて、はじめてマクシミリアンが口を開いた。
横にたつロナルドだけを見つめるマクシミアンの声は低く・・・しかしどこか甘い声だった。耳をすませていたくなるような美声だ。
「殺してくれ、私を・・・。」


(あぁ・・・・。)




一つだけあった。
この兄弟の共通点は、その美しい緑の瞳だ。
光をあびる新緑のように光り輝き、新芽のように優しい色合い。
そして、マクシミリアンのぼさぼさの黒髪からのぞく美しい緑の瞳は、彼の弟だけを映し続けている。
そんな兄をロナルドも優しく見つめ返す。
その瞳には映るものは・・・・・。

「人質に私の息子を。アルファン王家の血筋はあの子までだからね。」

「こんなことを言っては失礼だと思うが!!!

ロナルド殿の命を奪う必要があるのか!!」
ロイが叫ぶように二人を睨みつける。

「私が死ねばいいことだ。」「・・・・兄さんを一人でいかせる事はできないよ。」
兄の言葉に反応して激しく揺れるロナルドの緑の瞳。
その異様な光景にロイの横に一歩下がってひかえていたグレンが首を傾げる。


「私はっ!!私は・・・!」
二人の瞳に映るその感情・・・・
それに気付きはじめたロイは様々な感情に支配されていた。
ぐるぐると頭の中を過去の出来事がめぐる。

愛されていた自分。
殺されかけた自分。
王位についた自分。
色々なことを認めたくなくて
家族に殺されかけた過去を認めたくなくて
今を必死に生きてきた。
名君と讃えられれば讃えられるほど、苦しかった。
しかし、その半面で自分の進んだ道は
生きてきた道は正しかったのだと思えた。
そう思うことで自分の存在理由を無理やり作っているのだ。



しかし、同じく王位にあるマクシミアンはどうだ?
ロナルドはどうだ?
彼らは国のために生きてはいない。
彼らはきっと・・・・。



この推測はおそらく間違っていない。
「・・・・・・・・・殺すつもりはない・・・・・。どちらも・・・。」

国は落ちた。
城を抑えた今、戦争の必要はない。


海のように深い青い瞳が眩しいほどに輝いた。
「死ぬ必要はない。この国はもう




私のものだ。」
反論は許さない。
低く唸るような声は、グレンさえも震えるような強い声だった。
思わず、ひれ伏してしまいそうな圧倒的な声。

驚くようにロイを見つめるロナルドとマクシミリアンにつられて一歩前に立つ幼馴染の姿を見る。
ロイが遠くに感じる。
今までもその存在は光を放っていた。
だが、光が集合すれば埋もれてしまうような頼りない光でもあった。
国のために動く・・・・いや、国に動かされていた彼は、もういない。

「今日からアルファン国はルーベンスのアルファン領とする。あなたがたには、この領地をおさめてもらおう。」

二人で。

ロイの唇がそう動いた。


「この措置については私の責任だ。なにかあればすべて私が責任をおう。だから、私の顔に泥をぬるようなマネだけはするな。」

そう言って微笑むロイをロナルドは茫然とみていた。



真の王者は彼だ。
やはり、全然ちがう。
ロナルドは震える唇が笑みを描いているのに気付いた。




あとがき。
2013.05/27一部修正





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