月と妃と人質と。5







「予想通りだな。」
ロイは<アルファン>の城を見上げた。
城下町を抜けたその先に崖にかこまれた城が月と共に姿を現した時、ロイが思わず身震いした。
病的なように白い壁に屋根は黒く塗られ、派手な装飾は一切なく・・・装飾どころか窓すらあまりない。
無駄のない城は美しくもあり、またどこか不気味であった。
「・・・簡単すぎる戦争だな。」
ロナルドが協力してくれる、と予想をたて自ら赴いてみればこの通りである。
城下町付近まで攻め入っていた自軍と合流するや否や、たったの半日で城まで進行できたのだ。
しかも、城の警備はほとんどなく警備を担当している騎士たちはルーベンス軍を見ると抵抗する様子は見せずなりゆきを見守っているのだ。
「敵はアルファン王一人という事かねぇ・・。」
ロイの横に馬を並べ、グレンが苦笑する。
ロイは自軍を振り返り、何かを決意したように唇をかみしめ瞳を輝かせた。

「部隊はここで待機!グレン着いてこい!」
「っおい!馬鹿いうな!」
馬から降りた王を追ってグレンも慌てて走り出す。
「たったの二人で城に乗り込むなんて聞いたことねぇぞ!!」
走る姿すら美しい王と、あぁぁ!と頭を掻き毟るグレンの後姿を<ルーベンス>軍は心配そうに見つめた。



アルファン城には人気がなかった。
静かすぎる廊下は異常な雰囲気を醸し出す。
「・・・さすがに二人で乗り込むのは無謀だぞ?罠だったらどうする。」
「・・・・この夜中に、罠とはいえ明かりがほとんどないなど有り得ない。明かりがなければ守るものも守れない。それに加え、先ほど早馬でレンから文が届いた。バルド殿もタギ殿も国境近くにいるらしい。アルファン国の最強軍が落城するかもしれない時になぜ城にいないのだ。もし、これが罠だったとしても・・・こんなに計算された罠の真意が知りたいと・・・罠にのってみたいと思ったのだ。」
「馬鹿か!罠にのっちまったら死ぬかもしれんのだぞ!」
いくら幼馴染とはいえ、王に馬鹿などといえるのはグレンぐらいだろう。
「ずっと気になっていた。ロナルド様の『ロイ殿はよい王になれそうだ。』という言葉がな・・・。各国の王家が集まる10年に一度の大舞踏会でわざわざその発言をしたロナルド様の真意がな。あの方がそう発言することで俺の命が狙われる可能性が増えることなどお見通しだったはずだ。事実、馬鹿な兄弟どもがここぞとばかりに毒を飲ませようとしてきたからな。」
鼻で笑うロイはどこか寂しそうであった。
「俺は思うのだ。あの時から・・・・観察されていたのではないかとな。」
俺がどこまで這いあがれるか、あの方は観察していたいに違いない。
「なんのために・・?」
「それが分らないから、こうして罠か分らんものにのっているんじゃないか。」



「お前の好きなようにしろ。お前は俺が守ってやる。」
時々、寂しそうな顔を見せるロイに自分の無力さを思い知らされていた。
兄弟に命を狙われる苦しさも母親に冷たく接される辛さも分からない。
第4王子であったロイが王位につく事ができたのは、ひとえに彼のずば抜けた素質のせいだ。
幼少の頃は、第4王子ということもあり自由に周囲の人間や家族からも愛される存在だった。それが壊れたのは、前国王がロイの才能に気づいてしまったからだ。
兄弟たちの中でもずば抜けて頭が良く、大臣や王の前で政治や外交に意見していた。最初は褒められる事が嬉しくて発言していただけだったのに。
ロイはだんだんと自分の置かれていく状況に気づき、口をとざした。
気晴らしにとグレンの誘いにのって、6歳で剣をとった。幼馴染とその父と遊ぶのが楽しくて、幼馴染と競い合うのが楽しくて気付かないうちに上達していったのもロイの運命を変えるきっかけとなった。
近衛隊隊長であったグレンの父親から直々に教わる。
その息子であるグレンと同じ実力。それは、有り得ないことだった。
武術まで秀でてしまったロイにとどめをさしたのがロナルドの言葉だったのだ。
息子の才能に気づいていた王はロナルドの言葉で第4王子に王位を譲ることを決意してしまったのだ。
それから兄弟たちは、ロイに冷たくあたった。
長男の王位を信じて疑わなかったロイの母親も実の息子に冷たくなってしまっていた。
グレンはそれを近くで見ることしか出来なかった。
だからこそロイが王位を継いだ時、グレンは最年少で近衛隊隊長の座を実力で・・・そして実の父親から奪ったのだ。
それは異例なことだったのだが、それだけグレンの実力は類をみないほど秀でていたのだ。
グレンは小さい頃から、努力し続けていた。
そして、これからもそれは変わらない。
親友を守り続けるために。
もう二度と後悔をしないために。


一段と大きな扉。
玉座に座っているであろう王の姿を想像して、ロイは扉を開けた。












あとがき。
アルファン城のイメージはセコビアアルカサール城を不気味にした感じです。2013.05.26一部修正





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