「・・はぁ・・はぁ。」

寝坊だ・・・・。
よりよって今日、寝坊するなんて!
髪を整えることもせず、歯磨きをし服だけ着替えて寮を飛び出した。
走れば間に合う!!
今日を逃せばまた1週間会えないのだから。


絶対に間に合わせる!



普段は寝坊なんかしない俺が何故寝坊したかというと、サタンが降臨したからだ。
どこから話を聞いたのか、昨日自室の扉を開いたら腕を組んだ将が仁王立ちしていたのだ。すごい勢いで将に詰め寄られ、何度も罵られ、頭を叩かれ・・・・・。
懇々と説教をうけ続け、気付けば深夜3時。
『勘弁してくれ〜』
と、半泣きで将に土下座しやっと許してもらえたのだ。



「はぁはぁはぁ・・・。」

ガラッ・・・。
毎週水曜日7時半。
第三図書室の一番奥の窓際。


こんな早朝、ただでさえ利用客の少ない第三図書室に


あの人はいる。



山内麻貴先輩・・・・・。







俺は、慌てて本を手に取りいつもの定位置に座った。
壁に背を向け座る先輩の顔が見える一つ机を挟んだ俺の定位置の席だ。

今日は何の本を読んでるんだろう?
今日も綺麗だな・・・。
真っすぐ伸びた背中、姿勢よく座るその姿は一輪の百合のようだ。
ほっそりとした指が時折ページを捲る音が響く。
サラサラの長めの黒髪が朝日を浴びる。
透き通る様な白い肌に紅い唇。
本を読んでるせいで伏せた目。
まつげが長いなぁ・・・バサバサって音がしそうだ。

俺は本をあげてチラチラと山内麻貴先輩を見続ける。
いつも本は読まない。
先輩をみるので忙しいし、読もうとしても先輩が気になって集中できないのだ。


どんな声で話すのかな?
どんな風に笑うんだろう?




4月の半ばに早起きしすぎて立ち寄った図書室で、初めて先輩を見た。
一目ぼれ。
それから毎日、ここに通って先輩が水曜日にしか来ないことが分って・・・・。
今度は時間、今度は名前・・・・。
少しずつ分っていく事が嬉しくて、見ているだけで満足だった。

将には「ストーカーか!」と怒られたりもしたけど、先輩があまりに綺麗すぎて話しかけられない。
それに先輩は山内様って呼ばれてて学園でも有名な人だったんだ。会長や春彦先輩みたいに・・・。

抱きたいランキング1位らしくて!
頭もよくて!!
・・・・絵画のコンクールでいくつもの賞をとっているらしいし。
6月に行われた合唱祭ではピアノを弾いていた。
すごく上手だった・・・・。

すごい人すぎて見ることしかできない。
先輩は2年生だから、あと1年と半年ほどで卒業してしまう。
付属の大学にすすんでくれればいいのに・・・・。




キーンコーン・・・

チャイム、なっちゃった・・・。
この1時間が終われば、来週の水曜日まで先輩を見ることはできない。
いつもこの瞬間が一番嫌いだ。

カタン・・・
遠慮がちな音をたてて先輩が立ち上がる。
俺はあわてて下を向き、先輩が俺の横を通り過ぎるの待つ。
通り過ぎる瞬間に香る優しい花の香りにいつも胸が締め付けられる。


ガラッ
パタン・・・。
図書室の扉が完全に閉まってから、俺は立ち上がる。


話したこともない。
この図書室以外で会ったこともない。


全然、接点がない・・・・。
いつも見てるだけ。







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