「ふぃーっ! 腹減ったぁー」
「ため息うっせぇなあ。夜に食うと太るぞはち」
「僕も小腹が空いた。軽く何か食べたいね」
「雷蔵もか……何か買い行くか?」
「三郎さ、態度違いすぎね」
「ドンマイ竹谷」
長丁場の試験期間が襲来する度、各々の課題を抱えて集まるのは毎度お馴染みのイベントだ。筆記試験に口頭諮問にレポート製作。大学生にとって人生は誘惑に満ちているから、こんな辛い戦い一人じゃ乗り越えられない。
戦闘態勢の俺らを囲うのは各自散らかしたルーズリーフにレジュメ、広げっぱなしの本やノートパソコン。
図書館が満杯だったため、今回は雷蔵が基地を提供してくれた。彼は空腹をやっつけるべく「台所に何かあるかも」と乱雑に積まれた本を跨ぎ越えキッチンに向かう。
「カップ麺あったよ。2個しかないから半分ずつ食べよ」
「どん●衛だ!俺これ好き」
「へぇ、兵助ってうどん好きだったのか」
「どうせ白いからだろ」
「……!」
いらんちょっかいかける三郎と受け流せない兵助が不毛な口喧嘩をおっぱじめたので、キッチンの雷蔵の元へ身を寄せる。
「あ、僕お湯入れるから。はちテーブル片してよ」
了解。
みっともなく喧嘩する野郎二人は放置して、テーブル上の紙類を適当に端に押し遣った。
「止めろバカッ! これヴィンテージもんだぞっ! 皺になる!」
「お前が余計な事言わなきゃいいんだろっ」
「危なっ! ちょっと、中味お湯なんだから……」
「あっ俺油揚げ全部欲しいな」
「厚かましいんだよ豆腐野郎が! 雷蔵箸借りるぞ。……って、お前、片っぽしかないの捨てろよ。俺こういうのイヤ」
「だって、見つかるかもしれないって思うと捨てられないんだよ」
「三郎って小姑みたいだよな」
「お前は何なんだよ! 上げ膳据え膳されやがってっ」
「どうどう三郎。あ、もう5分経ったよな。先貰うぞ」
蓋をぴりぴり剥がした時、何か違和感は感じたんだ。けど空腹を満たせる喜びにせっつかれて、特に気にせず口に運んだ。
「………………」
……ん?
「頂きまーす」
「俺も。頂きます」
もう一つの方に箸を付けた三郎と俺からカップを分捕った兵助が、
「…………」
「…………」
口に含むなり固まる。かくいう俺もまだ動けない。
「なぁ雷蔵。これ、さ」
「雷蔵……」
「雷蔵、これ何したんだ」
「えぇ? どうしたの」
「不味い!」
「えぇ〜? 何だろ、不良品かな」
一刀両断な兵助に気圧された雷蔵が箸を取った。三郎はひたすらペットボトルを傾けている。口内に残るもよもよとした麺の感触が気持ち悪いんだろ、俺もそうだから分かる。
「ん……別に? おかしくないよ?」
「マジかよ!」
「雷蔵、このふやけ損なった感触を変に思わないの?」
「雷蔵……お前ポットのぬっっるい湯使っただろ」
そうか。カップ麺って不味く調理できるんだ。ていうかお湯入れるだけだろ。逆に凄ぇ。
「せめて60度は欲しいだろ……コレ湯気たってないし」
「あ〜、うちエアーポットだもんね」
「……雷蔵はインスタントコーヒーの粉が溶けてなくても平気で飲むんだ。俺はこないだ噎せかけた」
「三郎、神経質なんだよ」
「……雷蔵、それは違うと思う」
コシの死んだ温まっこい麺を豪快に啜る雷蔵。珍しく三郎を擁護した兵助は、涙目で油揚げを頬張っている。常々雷蔵は大雑把だと言う三郎の言葉が、俺たちの中にようく染み渡った。
「ものが食えるだけ有り難いと思わなきゃね」
「「「…………」」」
Yes,sir! 前進を続けます
090811
オオザッパー雷蔵