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※竹→くく
※気持ちいかがわしい










「いない……な?」

自主錬でもしているのかもしれない。珍しいことじゃない。

此処に来るまでに、逸る気持ちと期待感と、微かな緊張と。
散々闘っていたから、思わず肩から力が抜ける。
我ながら分かり易い。

苦笑いを浮かべて、出直そうと踵を返しかけた所で、別段このまま待っていても良いのではないかと思い直し座り込む。

自覚してからはずっとこうだ。

食堂で向かい(もしくは隣)に座る。
飲み差しの水筒から水を貰う。
笑いかける、立ち話をする、小突き合う、肩を組む。

どこまでが自然でどこからが不自然なのか、いちいち普段自分が周りの奴らにどう接していたのかを思い返さなければならなかった。

だってそうでもしなきゃ速攻で広まる気がする。本当に俺はあからさまだから。少なくとも、この部屋に居るだけで、何だか満ち足りてしまう程には。



胡座をかいたままぐるり室内を見回す。
今朝は急いでいたのだろうか、文机には結い紐の束が解かれたまま放られている。上薬のかかった陶器の筆置きには、きちんと穂先の揃った筆が二本。
壁袋に整理された紙類は全てきちんと巻かれたり端を揃えて折られたもので、持ち主の几帳面さをそっくり映していた。

兵助の過ごす部屋には当然彼の存在感みたいなものがしっとりと詰まっていて、其処に入り込めるだけで幸せを感じる俺は本当に安上がりだと思う。


今が一番楽しい時期なんじゃなかろうかと、そんなことを最近よく考える。
何と言っても忍に色は御法度だ。
俺が男である以上、そういう意味で想う相手に何も感じないわけはない。
ただ、いくら生理現象といったって欲望のままにこの想いを突き詰めて行けばどうしたって兵助を巻き込んでしまう。


どうこうしたいとか、そんなことよりも。
一緒に過ごすことを許されて、隣に立てるだけで満足すべきだと思うし、実際にそう感じられる俺はなかなかに良い生き方をしていると思うのだ。



ああ、でも、ちょっとだけ。

受け入れられて、共に同じ気持ちで笑い合えたらと、考えるくらいは許されるだろうか。

しなやかに動く腕を取って、抱き寄せて。柔らかい黒髪を撫ぜて顔を覗き込んだら、あいつはどんな表情をするんだろう。
間に何も入れない程ぴたりと体を寄せて、額を合わせて口を吸って、










「うわあっ!」

「わっ……なんだよ?」

「い、や、何でも! あああ、そうだ兵助芝考って綴じ本借りてないか? あれちょっと見たくて」

「あ。図書室で聞いたのか? 悪かったな、もう返せるから。今出すよ」

「いや……こっちこそ、悪い」



「そうだ竹谷、南蛮の菓子があるって聞いた? 食堂に。もしかしてもう食った?」

「え? いや、今聞いたよ」

「まだなら良かった、後で一緒に行かないか? 結構たくさんあるらしいから」

「へ? ……今! 今行こう兵助!」

「? お前、本はいいのか」

「あ。じゃあ、後でな」

「おお。お前、腹減ってたの? そんなニコニコして」

「ん、まあ、そんなとこ」




















「あれで隠しているつもりらしいから恐れ入るな。見ろ雷蔵、あの締まりを忘れた顔を」

「幸せそうで何よりじゃない。僕は兵助の方が心配だけど」

「あの朴念仁な。何で何一つ気が付かないんだ。……本っ当に、見ていて苛々させられる奴らだな」

「じゃあ見なきゃいいでしょ。はいほら、お菓子食べに行こうよ」










ぞぞ、ぞぞ、
でで虫の往く











090919
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