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※現代で高校生










「やったぁ?」

「全然やってなーい」

「私も!」



試験前にどこそこで弾ける会話は大抵こんなもんだ。しかし俺たちのグループは毛色が違う。

一番前に居る雷蔵は机に身を屈め、無言でノートやら何やらを広げている。その後ろ、同じくノート類を見つめる兵助は、時折己の記憶を確かめるように小声で単語を口に上らせていた。
俺の隣に座る三郎も同様に真剣なのだが、やってる事は消しゴムをどこまで薄く削れるかという実に実のない実験だ。
俺はといえばそうした教室の光景を眺め、審判の時を待っている。余裕綽々? それは誤解です。時代劇とかで見ない? 切腹を決めた武士が謡の一つでも謡ったりするだろ?
つまりもう覚悟を決めているのです。

仕方がない。俺は部活に青春を捧げると決めたのだ。
同様に部活でスタメンを務めながら学年上位をキープする自慢の恋人のことは、この際考えない。

「竹谷、」

不意に振り返った可愛い恋人。何てタイムリーな。

「兵助。なに?」

「見ないのか、何か」

「だってもう頭ん中入んねえ「頭ん中は兵助でいっぱいだから」

三郎……目線すら寄越さずに妙なアテレコするの、止めて。

「ちっげえよっ……!」


あ。あ、やばい。

ばっちり三郎の推量通りだった気恥ずかさから、咄嗟に口を衝いて出てしまった否定の台詞。
慌てて確認した兵助の表情は「あっそう」という淡白なものだった。まあ、その、勿論ご機嫌な風には見えない。

「違っ! 違うってそういう意味じゃ……!」

振り向いていた小さな頭がくるりと無言で元に戻る。
こんなことで本気で拗ねるような幼い奴でも感情的な男でもないと知っている。
だけど、(いくら羞恥からとはいえ)兵助への想い自体を否定してしまったような罪悪感が、孵ったばかりの仔グモのようにわんと散らばった。

「おいって! へいっ…」

「竹谷、先生来たよ」

「えっ」

えええ!
俺こんな精神状態で試験受けんの?
ムリだよ、問題とか冷静に読める気しねえよ!


試験前独特の喧騒が段々と静まる中、ちょっと呆然と椅子に背を預ける。
振り返った雷蔵が気の毒そうに俺と兵助を見比べた。(でも何だろう、口の端が持ち上がってるように見えるのは)
視界の端で三郎が顔を逸らして震えているのが見えて、ああ、ちくしょう。

心の底から実感してしまったじゃないか。
俺という人間にとって、兵助にどう思われるか、それが最優先事項なんだ。
だって、理性はこの懸念を捨てて試験に集中すべきでしょう(そうだ、やれるだけは頑張りたい)と囁くけど。
そんなこと出来るわけがない。出来る気がしない。
どうすれば機嫌を直してもらえるのか、俺の気持ちを実感してもらえるのか、そんな算段だけが今高速で胸を動かしてる。


周りがどう思おうが構うもんか。

とりあえずこの一限目、英語の試験が終わったら、何よりも初めにこいつを抱き締めてやる!










誠実であれ、と僕たちは











090916

雷蔵の微笑みは「またやってるよ」という仕方なさげな笑み。
試験結果?
竹谷は無論惨憺たる有り様でしたが、久々知も(普段に比べて)ガタガタだったそうです。拗ねなくとも動揺はする。三郎が小学生並な件についてはノーコメント^^
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