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『ホメオスタシスの卵』と同系列
※現代で別れた後










この先何があるのかってあいつは聞かなかったけれど、心の裡で漠然と不安に感じていたことを知っている。
例え聞かれても答えられなかったし答える必要もないと俺は今でも思っている。

腕を伸ばせば抱き締められる距離に俺がいるのに、眉を顰めて黙り込む相手。本当に時間をかけてゆっくりと湧き上がったのは、憂い顔の随分似合う情人に対する苛立ちだった。
霧みたいに霞んでいたものがはっきりそうした形となったのを自覚した日に、潮時なんだろうと判断した。



兵助は頭の中だけで世間を理解した気でいて、下世話で程度の低い見方が自分たちをいつも膜越しに囲んでいると思っていた。

切羽詰まってるわけでもないのに男同士でなんてバカバカしい、自然でない。どちらにしても気紛れだろう。やがて冷めてその内何もなかったように女と結婚して家庭を持つんだろうに、

膜が一度でも破れれば、それに飲み込まれてもみくちゃにされて、互いに互いを守りきれずにズタズタに傷付いてしまうと頑なに信じていた。
怯えと言うには諦観がそれから感情の襞を消していて相応しくなかった。それでも必要以上に踏み込んでこないし嫉妬なんて可愛らしい拘束もしない、行動は全部同じ解に結びつく。
沈んだ表情は閨でもはっきり貼り付いて、壁紙をくすませるヤニみたいにいつまでも消えない。その面に欲情しておきながら、腹が立った。




自分だって不安だった。誰かに大丈夫だって言って背を撫でてもらいたかった。あいつに愛してもらいたかったんだ。
停滞していてもこうして分離しても、多分どっちに転んでも苦痛しかなかった。だから精神衛生上一番楽な道を選んだつもりだった。それだというのに近くが寒い。真ん中にすうすう風が通る。

感覚は子どもか犬並みだ。恨み続けることも出来ずに、一度手放して喉下過ぎれば傷付けられた過去なんて忘れて帰ろう戻ろうと訴えてくる。

離れても、離れたからこそ余計にはっきりと兵助の考えていたことが分かる。
離れたくないから不安に思うんだと、本当に大事にしたいから憂えていたんだと、


ああでもかなしい。
抱き寄せて背を撫でてやるには、俺たちは子ども過ぎたんだ。










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