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★バーダックさんちの次男カカロットくんには父親が二人います



 その認識は戸籍上正しいものではない。けれど少なくともカカロット本人はそういう意識でいた。

 一人は多くの知人友人が瓜二つと称する正真正銘の父親であるが、ただ立っているだけで辺りを威圧する凄味のきいた面構えは全く自分に受け継がれていないと常々感じている。顔かたちにはその人の心が顕れると聞いたから、これは恐らく気質の問題で、つまり中身はあまり似ていないのだろうと子どもながらに考えていた。日頃からへらへらと笑ってばかりの自分と違って、いつも眉間に皺を刻んで厳しい顔立ちをした父が、時折ほんのりと目元を緩ませる瞬間が好きだった。


 もう一人は本来ならば兄にあたる。
 しかし年の離れた現状と母親の不在、仕事に忙殺される父親という状況が重なった結果、カカロットは実質兄に育てられたようなものであった。父親によく似た鋭角的な顔立ちで、けれど雰囲気が柔らかい兄の後ろを小さい頃からちょこちょこ付いて回っていた記憶がある。兄弟喧嘩にはとんと縁がない。せいぜいがやんちゃが過ぎるか決まりを破った時に一方的に叱り飛ばされる程度のもので。
 その日あった出来事を一つ一つ話せば頷きながら笑って聞いてくれる。生活を送る上で常に傍に在った兄をカカロットは心底慕っている。





 その第二の父であり長男であるところのラディッツにとっての父親というものは実に恐ろしい存在で、理不尽かつ横暴なまでに厳しく躾けられた経験から、生涯頭が上がらないだろうと諦めている。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすというが、素で斯くやあらんと欲した父の姿は心の底に刷り込まれており消えそうにもない。実は弟の教育にあたって反面教師とした点も多かった。刃物を鍛錬するがごとく打ち据えられ鍛えられた肉体と精神は、弟の育児を経て磨かれた包容力と責任感を併せることにより、彼に達観した趣さえ漂わせていた。

 初めての子に全てを使い果たしたかあるいは母親の逝去により方針を修正したのか、その父が次男を猫可愛がりするのだから人というものは分からないとしみじみ思っている。ちなみに不公平だと恨みに思うことは全くない。

 その可愛がり方が些か特殊であり、慣れない内はそこに秘めたる愛情が存在するとは到底認め難いからである。

 傍で声音と言葉だけを聞いていたなら児童相談所に駆け込まれてもおかしくはないのだが、次男は自身が可愛がられていることを皮膚感覚で察知している(あるいは気にも留めていない)らしく幼い頃から怯えた様子は全くない。
 幸いである。


 周囲からしょっちゅう「軽い」と評されているらしい弟の物事に然程頓着しない闊達な様。それが自分には受け継がれていない父親の特質と理解しているラディッツは、無邪気に駆け回る弟が将来どう育つのか楽しみであり、恐ろしくもあるのだった。










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